柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―

《二》呪詛、あるいは涙

 絵馬様寺を訪れた本当の経緯を住職さまに伝えたのは、住み込みを始めて一週間が経った頃だった。自分から話そうと決意して告げたわけではなく、そうせざるを得ない状況に陥っただけだ。

 とうとう、手首の痣を見られたのだ。

 夕飯の支度中、袖が邪魔で、私は無意識のうちに腕まくりをしていた。
 書庫に引きこもりがちの住職さまは、その日に限って手伝おうとしてくれた。青黒く残った私の痣を目にした途端、彼は、手にしていた数冊の本を床に落としてしまうほど派手に取り乱した。

 大丈夫だから、と告げてもなかなか信じてもらえなかった。
 焦った様子で、いつできた傷なのかとか、これまで頼んだ仕事のせいで痛んだことはなかったかとか、気づかなくて申し訳ないとか、何度も頭を下げられてしまった。

 衝動的に今回のひとり旅を計画した私は、絵馬を奉納した後のことまでは考えていなかった。そのくらい投げやりになっていた。新しい仕事だって適当に探せばいいと、いつもなら絶対に考えないことばかり頭に巡らせていた。
 それ自体が異常だったと自覚したのは、ここで手伝いを始めてからだ。見る間に減っていく通帳の残高も、勢いで退去したアパートの解約時の書類も、私に私自身の異常を伝えてはくれなかった。

 痛み止めの薬は、前回かかりつけの医院へ足を運んだ際に処方された一週間分のみ。
 旅行鞄に薬袋ごと放り込んでおいたそれは、先日、ついに最後の一回分となった。

 薬が途絶えた後は、鈍い痛みをただ我慢するしかなかった。
 大丈夫、打撲痛なんてそのうち消える。そう思い込もうとしていたけれど、じくじくと続く苦痛は思いのほか強く私を苛んだ。痛みを感じるたび、必ず、余計な記憶が一緒に蘇ってくるせいだ。
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