柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
重い記憶が唐突に蘇り、気持ちが乱れた。
けれど、醜い私の心根を責めるでも諭すでもなく、住職さまは静かに話を聞いてくれていた。
「今も痛みますか」
言葉が途切れたタイミングで穏やかに尋ねられ、私はなにを考える間もなく頷いていた。
手を引かれて向かった先は、それまで入ったことのない一室だった。木製の大きな棚からいくつかの瓶を取り出した住職さまは、慣れた手つきでそれらを混ぜ合わせて湯で溶き、薬湯を作ってくれた。
どうしてそんなことができるのか、それを掘り下げて考えていられる余裕は、私にはなかった。
喉を通り過ぎていく薬湯は、温かく身に沁みた。
苦い。けれど、それは幾日も飲んできた痛み止めの処方薬よりも、ずっと身体の隅々まで行き渡っていく気がした。じくじくと膿むような痛みを引きずり続ける、心の底まで。
ひと粒、ぽろりと涙が零れた。
痛んでいるのは身体の傷だけではない。
それを、おそらく住職さまも理解してくれていたのだと思う。ためらいがちに私の目尻へ指を伸ばしながら、彼は囁くように呟く。
「絵馬を奉納した後、万が一その人が命を落としたなら、それが偶然であってもなくてもあなたはもう生きていられないと思ったでしょう。違いますか」
「……住職さま」
「それとも、結果を知るよりも前に命を絶ってしまうおつもりでしたか」
静かに問われ、再び息が詰まった。
見透かされている。住職さまは、私がこの寺院を訪れた本当の理由を察している。私が、自分を傷つけた相手を不幸な死に貶めたくて絵馬を求めていたのだと、もう知られてしまっている。
けれど、醜い私の心根を責めるでも諭すでもなく、住職さまは静かに話を聞いてくれていた。
「今も痛みますか」
言葉が途切れたタイミングで穏やかに尋ねられ、私はなにを考える間もなく頷いていた。
手を引かれて向かった先は、それまで入ったことのない一室だった。木製の大きな棚からいくつかの瓶を取り出した住職さまは、慣れた手つきでそれらを混ぜ合わせて湯で溶き、薬湯を作ってくれた。
どうしてそんなことができるのか、それを掘り下げて考えていられる余裕は、私にはなかった。
喉を通り過ぎていく薬湯は、温かく身に沁みた。
苦い。けれど、それは幾日も飲んできた痛み止めの処方薬よりも、ずっと身体の隅々まで行き渡っていく気がした。じくじくと膿むような痛みを引きずり続ける、心の底まで。
ひと粒、ぽろりと涙が零れた。
痛んでいるのは身体の傷だけではない。
それを、おそらく住職さまも理解してくれていたのだと思う。ためらいがちに私の目尻へ指を伸ばしながら、彼は囁くように呟く。
「絵馬を奉納した後、万が一その人が命を落としたなら、それが偶然であってもなくてもあなたはもう生きていられないと思ったでしょう。違いますか」
「……住職さま」
「それとも、結果を知るよりも前に命を絶ってしまうおつもりでしたか」
静かに問われ、再び息が詰まった。
見透かされている。住職さまは、私がこの寺院を訪れた本当の理由を察している。私が、自分を傷つけた相手を不幸な死に貶めたくて絵馬を求めていたのだと、もう知られてしまっている。