柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
不意に、左手になにかが触れた。
壊れ物に触れるようなその感触は、自分が普段なにかの作業をする際、ついぞんざいな扱いをしてしまうときに感じる痛みよりも遥かに軽い。
胸に積もっていた澱を、すべて吐き出した直後だ。私の心はもうどうにもならないくらいに鈍っていた。
そこを辿るものの正体が、節の目立つ指でも大きな手のひらでもなく、もっとやわらかなもの――そうとはすぐに思い至れないほど。
青黒く濁るその痣を、何度も啄むそれは、彼の。
「え?」
恭しい仕種だと思った。私の手首を慈しむような仕種だと。
咄嗟に腕を振りほどいた。瞬間、我に返った様子で目を見開いた住職さまの視線が私のそれに絡む。
「っ、あ……ッ」
息が詰まる。これ以上、同じ場所に留まっていられそうになかった。
勢いに任せて立ち上がったそのとき、腰かけていた椅子が派手な音を立てて倒れた。しかし、それに気を配れるだけの余裕は、私には露ほども残っていない。
顔が熱い。今、きっと自分はひどい顔色をしている。でも。
もつれる足で逃げるようにその場を後にした私は、住職さまがどんな顔で私の背を見つめていたのか、気づくことができなかった。
壊れ物に触れるようなその感触は、自分が普段なにかの作業をする際、ついぞんざいな扱いをしてしまうときに感じる痛みよりも遥かに軽い。
胸に積もっていた澱を、すべて吐き出した直後だ。私の心はもうどうにもならないくらいに鈍っていた。
そこを辿るものの正体が、節の目立つ指でも大きな手のひらでもなく、もっとやわらかなもの――そうとはすぐに思い至れないほど。
青黒く濁るその痣を、何度も啄むそれは、彼の。
「え?」
恭しい仕種だと思った。私の手首を慈しむような仕種だと。
咄嗟に腕を振りほどいた。瞬間、我に返った様子で目を見開いた住職さまの視線が私のそれに絡む。
「っ、あ……ッ」
息が詰まる。これ以上、同じ場所に留まっていられそうになかった。
勢いに任せて立ち上がったそのとき、腰かけていた椅子が派手な音を立てて倒れた。しかし、それに気を配れるだけの余裕は、私には露ほども残っていない。
顔が熱い。今、きっと自分はひどい顔色をしている。でも。
もつれる足で逃げるようにその場を後にした私は、住職さまがどんな顔で私の背を見つめていたのか、気づくことができなかった。