柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―

《三》触れる指

 さらに数日が過ぎた。
 初めてこの場所を訪れてから、半月ほど経過したと思われる。曖昧な言い方になってしまうのは、カレンダーをはじめとした日付を追うためのツールが、寺院内に一切ないからだ。

 元々、手帳を持ち歩く癖はない。あったとしても頻繁には開かない。頼みの綱のスマートフォンは、電気が通っていないこの場所では充電ができず、使い物にならない。
 何日経ったか数えなくてもいいのか。そんな不安を覚えた頃には、すでに遅かった。
 単調な毎日は私の心を穏やかにしてくれていたものの、逆にそれが仇となって、私はここに辿り着いてから何日が経過したのか正確に追えなくなっていた。

 最初は数日との約束だったのに、住職さまもその点について触れてこない。
 カレンダーはありますか、と尋ねたときにはきょとんとされてしまった。そんな言葉は知らないと言わんばかりの表情だった。今日が何日か知りたくて、と咄嗟につけ加えると、『ああ、暦のことですね』と、住職さまはようやく腑に落ちたという顔で返事をしてくれた。でも。

 いくら古風な生活をしているからといって、カレンダーという言葉を知らないなんてあり得るだろうか。
 得体の知れない不安が胸をよぎったけれど、わざわざ言及するのも気が引けた。以降、私はそうした話題を避け続けている。

 痣に触れられた日以来、住職さまは一度も私に触れていない。自分を戒めるかのように、明確な意思のもとで私と接している様子がひしひしと伝わってくる。
 私は私で、あの日の詳細を思い出すだけで頬が熱くなる。結局、思い出さないようにと強く意識するしかなかった。それ自体が、思い出すこととほぼ同じではあるのだけれど。

 結果的に、私たちの関係にはなんの変化もないまま、ただ月日だけが過ぎていた。
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