柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 加えて、近頃はそれとは別の理由による違和感も覚え始めていた。

 いつまで経っても雨が降りやまないのだ。住み込みを始めた頃には、梅雨はもう終盤に差しかかっていたのに。
 テレビがないから天気予報の確認ができない。スマートフォンが動かないから、インターネットに接続しての確認もできない。それまでの日常から懸け離れた生活は、私が負ったさまざまな傷を忘れさせてくれるけれど、今となっては胸を這うような不安を覚えることもしばしばだ。

 住職さまは住職さまで、寺院の外へ出かけようとしない。
 古いとはいえ、これほど大きな寺院なら檀家も多いのではないか。行事や法事、場合によっては葬式も十分起こり得るだろうし、檀家とのやり取りだってあるはずだ。こういう世界の事情に明るくない私でも、その程度の想像はつく。

 けれど、なにもないし、誰も来ない。
 お参りに来る人の姿ひとつ見たことがなかった。ただの一度も。

『ご存知もなんも、昔はうちも檀家だったらしいがらの』

 ここへ来る前に立ち寄った個人商店のお婆さんの声が、ふと脳裏をよぎる。
 昔はうちも檀家だった……では、今は? これほど立派な寺院なのに、どうして彼女の家は檀家をやめる必要があったのか。

 ああ、でも。
 確か、あのお婆さんは、そもそも。
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