柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
腕時計へちらりと視線を走らせる。時刻は午後二時だ。
今夜の宿泊予約は、駅近くの小さな旅館に取ってある。どんよりとした曇り空のせいか、体感ではだいぶ遅い時間に感じられてしまうけれど、日帰りで十分帰れる距離だ。
塚から少し進むと、ほどなくして、右側に苔むした石段が見えてきた。
あれだ。荷物を持つ手に力がこもる。
……なにもせず、このまま麓へ戻ったほうが良いのでは。
一瞬そう思ったけれど、私は首を横に振ってその考えを掻き消した。
石段は、横幅は広くても縦幅が短く、非常に歩きにくい。とはいっても、もうここまで来てしまった。先に進む以外の選択肢はない。
この先は、廃寺と化した〝絵馬様寺〟に繋がっている。その名に冠された絵馬が奉納されている場所も、廃墟同然になっているはずだ。
そこが建物の中にあるのかどうかすら定かではないけれど、廃墟と化した場所なら、どのみち風雨に晒されて朽ちている可能性が高い。それと思しき場所さえ見つけられれば。
無意識のうちに拳を握り締めながら、ふ、と吐息が零れた。
なんのために、これほど躍起になってまで知らない土地の廃寺を目指しているのだったか。意地になっている自分が滑稽でならない。こんなことをしても、私に得なんかひとつもない。
気が晴れるかどうかだって分からないのに、なんて間抜けな。
口元が自嘲に歪みかけた、そのときだった。
苔むした石段は、思った以上に滑った。
途中から朽ちかけの手すりにしがみつきながら上り、まさに最後の一段というときになって、足が派手にもつれてしまった。
「きゃッ……!」
ひやりと背筋が凍ると同時に、反射的に声が出た。
今夜の宿泊予約は、駅近くの小さな旅館に取ってある。どんよりとした曇り空のせいか、体感ではだいぶ遅い時間に感じられてしまうけれど、日帰りで十分帰れる距離だ。
塚から少し進むと、ほどなくして、右側に苔むした石段が見えてきた。
あれだ。荷物を持つ手に力がこもる。
……なにもせず、このまま麓へ戻ったほうが良いのでは。
一瞬そう思ったけれど、私は首を横に振ってその考えを掻き消した。
石段は、横幅は広くても縦幅が短く、非常に歩きにくい。とはいっても、もうここまで来てしまった。先に進む以外の選択肢はない。
この先は、廃寺と化した〝絵馬様寺〟に繋がっている。その名に冠された絵馬が奉納されている場所も、廃墟同然になっているはずだ。
そこが建物の中にあるのかどうかすら定かではないけれど、廃墟と化した場所なら、どのみち風雨に晒されて朽ちている可能性が高い。それと思しき場所さえ見つけられれば。
無意識のうちに拳を握り締めながら、ふ、と吐息が零れた。
なんのために、これほど躍起になってまで知らない土地の廃寺を目指しているのだったか。意地になっている自分が滑稽でならない。こんなことをしても、私に得なんかひとつもない。
気が晴れるかどうかだって分からないのに、なんて間抜けな。
口元が自嘲に歪みかけた、そのときだった。
苔むした石段は、思った以上に滑った。
途中から朽ちかけの手すりにしがみつきながら上り、まさに最後の一段というときになって、足が派手にもつれてしまった。
「きゃッ……!」
ひやりと背筋が凍ると同時に、反射的に声が出た。