柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 掛時計が示している時間は、午後七時。
 止まったきりの私の腕時計とは違い、柱にかかる大型の時計は、カチコチと規則正しく時間を刻み続けている。振り子時計と呼ぶのだったか、長針が十二を指すときにボーン、ボーンと音が鳴る、相当に年季の入った時計だ。

 もうすぐ夕飯の時間だ。
 居間に現れない住職さまを探し、私は書庫へ足を向けていた。

 料理を含め、苦手な家事はあまりない。とはいっても、和食に関してはそれほどレパートリーがなかった。
 しかも、ここには電子レンジやミキサーなどの家電調理器具や、圧力鍋のような便利な道具がない。電気が通っていないことや、マッチを擦って火を点けるタイプの焜炉と七輪を目にした時点で想像はついていたけれど、特に最初の数日は本当に簡単な食事しか作れなかった。

 料理雑誌をめくってレシピを見たり、インターネットで調べたり、そういうこともできないから当初は相当に頭を悩ませた。半月近くが経ったと思われる今でも、一向に自信はないままだ。
 けれど、住職さまは私が作った食事をいつも残さず食べてくれる。見るからに細身の外見に加え、食事を抜きがちだという話を聞いていた分、食が細そうなイメージを持っていたものの、決してそうではないらしい。

 食材は、台所の奥の小部屋に収められている。そこは食料の貯蔵庫になっていて、意外にもさまざまな食品や調味料が揃っていた。
 当初は火の扱いひとつに苦労していたから、手の込んだものを作ろうとせず、カレーやシチューなど作りやすい食事をと思っていた。けれど、豊富な食材が揃う貯蔵庫のどこを見回しても、カレーやシチューのルウは見つけられなかった。

 よくよく眺めてみると、洋食のレシピに使えそうな食材はほとんどなかった。
 調味料も、醤油や塩、味噌の類は充実しているのに、例えばコンソメなどの洋食用の品はどれだけ探しても見つからない。加工食品やレトルト食品も見当たらなかった。
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