柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 日頃あまり生活感を漂わせない人だけれど、箸を手にしているときだけは可愛らしく見える。
 新婚みたいだな、と思った瞬間、火が出たかと思うほど顔が熱くなった。
 またやってしまった。自分で巡らせた考えに自分で恥ずかしくなって、傍から見たらきっと相当に間抜けだ。それでも、ここ最近の私はなかなかこれをやめられずにいる。

 恥ずかしさにひとり悶えていると、不意に、今朝目にした情景が瞼の裏に浮かんだ。
 余計に頬が緩む。朝、それもタイミングが良くないとお目にかかれない、住職さまの袈裟姿を思い出したからだ。

 法衣の上に重ねられた深い(えん)()色の袈裟には、蓮と鳳凰の荘厳な紋様が銀糸で描かれている。豪奢と静謐、どちらも感じられる艶やかな袈裟姿は、朝のお勤めの前にだけ見られる住職さまの特別な格好だ。
 家事を進めている間に普段の作務衣に着替え終えていることも多く、その場合は見逃してしまうのだけれど、彼自身の珍しい髪色と馴染む後ろ姿を見ると得した気分になる。
 溜息が出るほど美しい。価値ある美術品を眺めているかのような高揚を覚えられただけでも、住み込みを引き受けた甲斐があったと言えそうだ。美術品扱いなんて、どう考えても相手に失礼だけれど。

 とめどなく巡らせていた不謹慎な思考を振り切り、私は書庫へ足を踏み入れた。でも、そこに住職さまの姿はなかった。
 暗くなってきたからか、書庫はいつにも増してがらんとしている。いつも住職さまが上っては下りてを繰り返している木製の古い梯子が、ぽつんと壁に立てかけられているだけだ。

 珍しい。ここでないなら、一体どこにいるのか。
 思い当たる節がなかったけれど、ひと呼吸して気を取り直し、とりあえず住職さまの私室を目指してみる。
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