柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
ぎしぎしと軋む廊下を進み、彼の部屋の前で立ち止まる。
確かここだ。でも。
室内に立ち入ったことはなかったから、引き戸を開いていいのか一瞬ためらった。
そっと指をかけながら、その頃になって、声くらいかければ良かったかなと薄く後悔が滲む。
そして、開いた扉の先へ覗いた光景に、私は派手に息を詰めた。
引き戸に手が当たり、鈍い音が響く。
薄暗い室内、蝋燭の淡い明かりに照らし出されていたものは、上半身裸の住職さまの姿だった。
「あ……っ!?」
着替えの最中だったのか、壁には新しい作務衣がかけられている。
動揺が過ぎ、扉を閉めることもできない。口を開けたり閉めたりして混乱する私を見て、住職さまも焦ったような素振りを見せている。
「ご、ごご、ごめんなさい、いると思わなくて!!」
「いえ、その……すみません」
いると思わなかったのならなぜ来た。自分の言葉に毒づく余裕はあるのに、引き戸を閉める余裕がないのはどうしてか。
住職さまは住職さまで、思いがけないトラブルに声を上擦らせている。ただでさえパニック状態の私の頭は、その声を聞いて余計に追い詰められてしまう。
引き締まった筋肉質な裸身が、目に焼きついたきり離れない。うるさく騒ぐ心臓に息を乱されながら、目を背けなければという意識がようやく働いた、そのときだった。
揺らぐ明かりの中、どうしてそれだけがはっきり見えたのかは分からない。
鎖骨の下、白肌から浮き上がる黒い色。それが見えた瞬間、先刻とは違う理由で私はまた息を呑んだ。
大きな痣だ。
蓮の花を象ったような鮮明な輪郭と、濃い黒。刺青かと見紛うほどの。
けれど、それよりも私の目を惹きつけてやまなかったのは、痣の上を走る大きな傷だ。
確かここだ。でも。
室内に立ち入ったことはなかったから、引き戸を開いていいのか一瞬ためらった。
そっと指をかけながら、その頃になって、声くらいかければ良かったかなと薄く後悔が滲む。
そして、開いた扉の先へ覗いた光景に、私は派手に息を詰めた。
引き戸に手が当たり、鈍い音が響く。
薄暗い室内、蝋燭の淡い明かりに照らし出されていたものは、上半身裸の住職さまの姿だった。
「あ……っ!?」
着替えの最中だったのか、壁には新しい作務衣がかけられている。
動揺が過ぎ、扉を閉めることもできない。口を開けたり閉めたりして混乱する私を見て、住職さまも焦ったような素振りを見せている。
「ご、ごご、ごめんなさい、いると思わなくて!!」
「いえ、その……すみません」
いると思わなかったのならなぜ来た。自分の言葉に毒づく余裕はあるのに、引き戸を閉める余裕がないのはどうしてか。
住職さまは住職さまで、思いがけないトラブルに声を上擦らせている。ただでさえパニック状態の私の頭は、その声を聞いて余計に追い詰められてしまう。
引き締まった筋肉質な裸身が、目に焼きついたきり離れない。うるさく騒ぐ心臓に息を乱されながら、目を背けなければという意識がようやく働いた、そのときだった。
揺らぐ明かりの中、どうしてそれだけがはっきり見えたのかは分からない。
鎖骨の下、白肌から浮き上がる黒い色。それが見えた瞬間、先刻とは違う理由で私はまた息を呑んだ。
大きな痣だ。
蓮の花を象ったような鮮明な輪郭と、濃い黒。刺青かと見紛うほどの。
けれど、それよりも私の目を惹きつけてやまなかったのは、痣の上を走る大きな傷だ。