柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―

《四》絡まる指

 壊れ物に触れるように、長い指が私の肌を辿る。
 空気に晒された肌は普段よりも敏感になっていて、淡くなぞられるだけで声が漏れてしまいそうになる。

『遊郭などにも、足を運んだことはなくて』

 薄暗い室内にいながらもはっきりそうと分かるほど顔を赤く染めたあなたは、さっき、上擦った声でそう零した。
 女性と交わるのは初めてだ、という意味だろうか。
 いわれてみれば、指や唇の動きはぎこちない。力加減が分からなくなるのか、ときおり痛みを感じるくらい強く触れられる。気を遣わせたくなかったから、たびたび、私は苦痛を訴えそうになる己の声を噛み殺した。

 それよりも、脳裏に居座り続ける違和感が、またひとつ増えた。
 遊郭。随分と古い言葉だ。そんな言葉を選んで使う人が、果たして現代にいるだろうか。

 日頃から味わっている違和感が、そのやり取りのせいで一層強まる。積み重なっていくそれは次第に嵩を増し、膨張し、今となっては私の頭にひとつの仮説を植えつけてしまっている。
 頭を埋めかけた考えは、唇を塞がれたせいで霧散した。
 痣の残る左腕を誤って押し潰さないようにか、あなたは自分の手で私の左手を握ったきりだ。余裕がなさそうなのに、きちんと気を配ってくれる。その優しさに、心ごと鷲掴みにされたかと思うほどの幸福感を抱く。

 これ以上余計なことを考えるのはやめよう。そう思った。

 口端から零れ落ちる自分の声に、堪らず耳を塞ぐ。
 決して手慣れているわけではない、(つたな)ささえ感じ取れるほどの触れ方にこんなにも翻弄されて、自分がはしたない女に成り下がってしまった気がしてならなかった。

 私をほしがって、あなたは今、初めて獰猛な顔を晒している。
 そうして、私の心も身体も根こそぎ喰らい尽くしていく。
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