柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
「明日名。名前、呼んでくれますか」

 名を呼ばれ、涙が溢れそうになる。
 促されるまま、あなたの名を口にした。羞恥が過ぎた私は顔を隠すために身をよじったけれど、すぐ正面に向き直らされてしまう。
 熱に浮かされたあなたの両目が、間近で揺れている。吸い込まれそうになって、抑えきれなくなって、あとはもう引きずられるばかり。

「好き……」
「っ、明日名?」
「私、尊さんのこと、好きです」

 自分の声が、自分のものではないかのように遠い。
 だとしても、これ以上胸の奥にあなたへの想いをしまい続けておくのは無理だと思った。

 無理に声を絞り出して気持ちを伝えた後、返事を待つことなく、あなたの右肩へ手を伸ばす。肌を走る長い傷は、時間が経つにつれて色をより鮮明にしていくように見えて、息が震えてしまう。
 そこに指を這わせ、ゆっくりとなぞる。
 触れられて感じる痛みは今もあるだろうか。古い傷に見えるけれど、あまりに色鮮やかなせいで、つい最近切られたばかりなのではと思えるほど痛々しい。

「痛い、ですか?」
「……いいえ。もっと触ってほしい」

 消え入りそうなあなたの声が、私を余計に泣きたい気分へ突き落とす。
 息苦しさを紛らわせながら身を起こし、私はそこに唇を這わせた。舌でなぞった傷痕からは、どうしてか鉄の味がした。
 指で触れるだけでは足りない。もっと深く触れたい。いっそこの傷を爪でなぞって切り裂いて、そこからあなたの身体の内側に入り込んでしまえたなら――物騒な考えを止められないまま、私はあなたの背に腕を巻きつける。
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