柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
兄よりも力のある者が現れるなら、早々に祭祀者の変更を。その者が男なら、跡継ぎごと変更を行うべきである。
鼻息も荒く、重鎮たちは口々にそう叫び続けていた。寺院の命運を握っているのは自分たちだと言わんばかりに。
経緯や理由はどうあれ、父と母は、それぞれが己の役割を果たすことで互いの負担を軽減し合えている。私も兄とそんなふうに寺院を支えていきたいと考えた時期もあったが、その考えは周囲の人間、特に重鎮たちによってすげなく却下された。
住職あるいは祭祀者の後継として、兄はとうにさまざまな実務をこなしていた。
一方の私は、十歳を過ぎた頃から薬学を志していた。跡継ぎは兄であり、自分は能力を有しているといっても兄のそれには及ばぬ。ならば少しでも兄を支えたい。私の根底にはそうした思いがあった。
寺院を訪れる者の中には、身分の低い者や貧しい者もある。病に苦しむ者、怪我の痛みを訴える者、幼い子供のそれを治したいと涙する親。そういった者たちになにかしてやれることはないかと、寺院に勤める薬師へ師事したのだ。
そんな中、母はときおり兄ではなく私を伴って死後婚の儀に臨んだ。
しかしそれも、単に兄の手が空かなかったのだと割り切った。住職と祭祀者、どちらも担うと決まっている兄を差し置いて私が選ばれる理由など、思い浮かばなかったからだ。
父と母がそれぞれ担っているものは、いずれ兄の肩へ一遍に圧しかかる。今と同様、ふたりの人間がどちらかを担う形を取れば良いものを、重鎮たちは〝本来のあり方に戻すべき〟とひたすらにこだわった。
時代の変化とともに、より良い方向へ向かえるよう形を変えていく。それは彼らにとって禁忌に他ならぬらしい。
役割をふたり分に分けざるを得なかった父と母を、彼らはことあるごとに罵った。特段、住職という立場に無理に縋りついた愚かな父よりも、母を。
鼻息も荒く、重鎮たちは口々にそう叫び続けていた。寺院の命運を握っているのは自分たちだと言わんばかりに。
経緯や理由はどうあれ、父と母は、それぞれが己の役割を果たすことで互いの負担を軽減し合えている。私も兄とそんなふうに寺院を支えていきたいと考えた時期もあったが、その考えは周囲の人間、特に重鎮たちによってすげなく却下された。
住職あるいは祭祀者の後継として、兄はとうにさまざまな実務をこなしていた。
一方の私は、十歳を過ぎた頃から薬学を志していた。跡継ぎは兄であり、自分は能力を有しているといっても兄のそれには及ばぬ。ならば少しでも兄を支えたい。私の根底にはそうした思いがあった。
寺院を訪れる者の中には、身分の低い者や貧しい者もある。病に苦しむ者、怪我の痛みを訴える者、幼い子供のそれを治したいと涙する親。そういった者たちになにかしてやれることはないかと、寺院に勤める薬師へ師事したのだ。
そんな中、母はときおり兄ではなく私を伴って死後婚の儀に臨んだ。
しかしそれも、単に兄の手が空かなかったのだと割り切った。住職と祭祀者、どちらも担うと決まっている兄を差し置いて私が選ばれる理由など、思い浮かばなかったからだ。
父と母がそれぞれ担っているものは、いずれ兄の肩へ一遍に圧しかかる。今と同様、ふたりの人間がどちらかを担う形を取れば良いものを、重鎮たちは〝本来のあり方に戻すべき〟とひたすらにこだわった。
時代の変化とともに、より良い方向へ向かえるよう形を変えていく。それは彼らにとって禁忌に他ならぬらしい。
役割をふたり分に分けざるを得なかった父と母を、彼らはことあるごとに罵った。特段、住職という立場に無理に縋りついた愚かな父よりも、母を。