柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
*
知らなくても良かったことを知る。
このような家に生まれ落ちてしまった以上、それはなにも珍しくなかった。また、頻繁ではないにしろ、そういう事態には常々直面させられていた。
ただ、次期当主のみに知らされる事情を、私はいささか甘く見すぎていたらしい。
能力に焦点が当たって変更されただけに過ぎない跡継ぎについて、私はなおも、自分が祭祀者の役を引き継ぎ、兄が住職を担えば良いと考えていた。
曲がりなりにも、父と母にはそれが認められている。自分と兄にだって認められても良いはずだと、そんな安易な考えばかり馳せていた。
当主の妻でありながら、ほぼすべての死後婚に携わっていた母。
彼女から聞かされたのは、跡継ぎにだけ知らされるというある事実であった。
絵馬を利用した人殺し、それによって得られる富、有力者たちとの癒着。死後婚の儀とは完全に異なる形で執り行われる禁忌の儀……それに手を染めさせられるのは、多くの場合は祭祀者でなく、祭祀者になれるほどの力を持たぬ能力者たち。
しかも、自身が執り行っている儀の詳細は、彼らには知らされぬという。なにも知らぬまま禁忌に手を染めさせられ、殺人を余儀なくされているのだと。
眩暈どころの話ではなかった。
話の途中で口を押さえてその場に蹲った私を見下ろしながら、寺院の真の姿を語り聞かせた母は表情ひとつ変えなかった。
罪のない人間を、よりによって絵馬を――黄泉への干渉を利用して殺す。
あってはならない、禁忌を悪用した最悪の行為だ。
知らなくても良かったことを知る。
このような家に生まれ落ちてしまった以上、それはなにも珍しくなかった。また、頻繁ではないにしろ、そういう事態には常々直面させられていた。
ただ、次期当主のみに知らされる事情を、私はいささか甘く見すぎていたらしい。
能力に焦点が当たって変更されただけに過ぎない跡継ぎについて、私はなおも、自分が祭祀者の役を引き継ぎ、兄が住職を担えば良いと考えていた。
曲がりなりにも、父と母にはそれが認められている。自分と兄にだって認められても良いはずだと、そんな安易な考えばかり馳せていた。
当主の妻でありながら、ほぼすべての死後婚に携わっていた母。
彼女から聞かされたのは、跡継ぎにだけ知らされるというある事実であった。
絵馬を利用した人殺し、それによって得られる富、有力者たちとの癒着。死後婚の儀とは完全に異なる形で執り行われる禁忌の儀……それに手を染めさせられるのは、多くの場合は祭祀者でなく、祭祀者になれるほどの力を持たぬ能力者たち。
しかも、自身が執り行っている儀の詳細は、彼らには知らされぬという。なにも知らぬまま禁忌に手を染めさせられ、殺人を余儀なくされているのだと。
眩暈どころの話ではなかった。
話の途中で口を押さえてその場に蹲った私を見下ろしながら、寺院の真の姿を語り聞かせた母は表情ひとつ変えなかった。
罪のない人間を、よりによって絵馬を――黄泉への干渉を利用して殺す。
あってはならない、禁忌を悪用した最悪の行為だ。