柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 幼い頃、母に伴われて立ち会った死後婚の儀で目にした少年と少女の姿が脳裏をよぎった。
 子供同士でありながら、あの死者たちは残された家族の苦しみを理解し、互いを受け入れ、そして手を取り合った。
 窓の外へ向かうふたりの後ろ姿は、確かにこの世のものではなかったが、温かな平穏に満たされていた。この力は、あのような死者たちを、残された人間たちを、安寧に導き繋ぐためのものなのに。

 苦しみを取り除き、痛みを和らげるためにこそ、この力を使うべき。
 そう教えてくれたのは他ならぬあなただったはずだ、母上。

(まもる)は、五つのときにすべて受け入れた。お前はどうだ』
『受け入れられぬと言うなら、我々は早急に手を打たねばならない』

 母の声はいつにも増して平坦で、また疲弊していた。
 たび重なる議論に巻き込まれ、母もすっかり板挟みになっている。己の腹から産んだふたりの子のどちらかを、結局、自分と同じ道へ誘うより他に手段を持たない。

 よぎった諦念はもうひとつあった。
 兄は受け入れていたのか。そんなにも幼いうちに私の知らぬ真実を知り、受け入れ、それに倣うことを(いと)いすらできぬまま、すべてを受け継ごうとしていたのか。

 瞬間、焦げつくような嫌悪が胸を焼いた。

 兄では駄目だ。
 どうにかして変えられないか。絵馬と死後婚を巡る癒着を取り除き、腐敗した寺院の内部を再生させることはできないのか。

『無茶を言う。お前ひとりの手で成せる程度の話ではないんだよ』

 母は苦しげに呻いた。しかし、どうかそうしてほしいと言いたげでもあった。
 幼い頃から跡継ぎとしての薫陶を受けていた兄は、その過程で信じ込まされたのだ。だからこそ抗えなかった。そもそも抗う隙などなかった。おかしいと感じられるだけの精神が育つよりも前に、洗脳を施された以上は。

 だが、私は違う。
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