柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
これほどの番狂わせに、周囲はひどく浮足立っている。
わざわざ跡継ぎを変更する理由についても、うまく思い至れずにいる身内は少なくなかった。禁忌に触れる一族の秘密を知る人間をわざわざひとり増やしてまでそうする理由など、どう考えてもひとつしかないだろうに。
鎖骨の下を指でなぞる。
跡継ぎを決めるための集会が開かれた当時、私の徴は薄く、形も不明瞭だった。兄のそれのほうが、遥かにくっきりと肌に浮かび上がっていたという。
ところが時が経つにつれ、私のそれには明確な兆候が現れた。肌の色と大して変わらなかった徴は、時間をかけてゆっくりと色を深くした。犬猫に引っ掻かれた傷程度の小さな模様しか持たなかったものが、完全にこの家の紋――蓮を象った大きな徴へと変化を遂げた。
母はそれを知っていた。
だから、私が跡継ぎから外れた後も、幾度となく私を伴って死後婚の儀に臨んだ。
兄には変えられない。変える理由も正義も、兄の中には存在しない。五歳の時点で刷り込まれた洗脳は、どんな説得をもってしても、おそらくもう変化しない。
癒着も禁忌破りも、最初からあったものではないはずだ。ならば、やはりこの力はあるべき形に戻すべき。
水面下で長く交わされてきた後継者に関する激論、それがもたらした唐突な変化。ただ動揺を重ねるだけだった私は、こうして〝己でなければ成し得ない〟と信じ込める大義名分を得た。そうして、どうにか自分を取り巻く環境の変化を受け入れようとした。
歪んだ見方をするなら、突如この身に降りかかってきた使命に浮足立ち、深く酔わされてしまった――今なら冷静にそう判断できる。だが。
このとき胸に抱いた覚悟さえ、所詮は夢物語でしかなかったこと。
それを、この五年後、私は身をもって思い知る羽目になる。
わざわざ跡継ぎを変更する理由についても、うまく思い至れずにいる身内は少なくなかった。禁忌に触れる一族の秘密を知る人間をわざわざひとり増やしてまでそうする理由など、どう考えてもひとつしかないだろうに。
鎖骨の下を指でなぞる。
跡継ぎを決めるための集会が開かれた当時、私の徴は薄く、形も不明瞭だった。兄のそれのほうが、遥かにくっきりと肌に浮かび上がっていたという。
ところが時が経つにつれ、私のそれには明確な兆候が現れた。肌の色と大して変わらなかった徴は、時間をかけてゆっくりと色を深くした。犬猫に引っ掻かれた傷程度の小さな模様しか持たなかったものが、完全にこの家の紋――蓮を象った大きな徴へと変化を遂げた。
母はそれを知っていた。
だから、私が跡継ぎから外れた後も、幾度となく私を伴って死後婚の儀に臨んだ。
兄には変えられない。変える理由も正義も、兄の中には存在しない。五歳の時点で刷り込まれた洗脳は、どんな説得をもってしても、おそらくもう変化しない。
癒着も禁忌破りも、最初からあったものではないはずだ。ならば、やはりこの力はあるべき形に戻すべき。
水面下で長く交わされてきた後継者に関する激論、それがもたらした唐突な変化。ただ動揺を重ねるだけだった私は、こうして〝己でなければ成し得ない〟と信じ込める大義名分を得た。そうして、どうにか自分を取り巻く環境の変化を受け入れようとした。
歪んだ見方をするなら、突如この身に降りかかってきた使命に浮足立ち、深く酔わされてしまった――今なら冷静にそう判断できる。だが。
このとき胸に抱いた覚悟さえ、所詮は夢物語でしかなかったこと。
それを、この五年後、私は身をもって思い知る羽目になる。