柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
曖昧に苦笑を浮かべつつ、このとき、私はある考えを巡らせていた。
常々思い描いていたものの、他の人間には口外してこなかったある案を。
藍には先に伝えておいたほうがいい。
艶やかな風貌のせいでつい忘れてしまいそうになるが、藍はまだ十四歳の少女だ。その身に宿す苦悩は、できるだけ軽いほうが良い。
「藍」
「なぁに?」
「藍は、護と一緒になりたいんだよね」
「……ええ、そうよ」
私を見つめる藍は、怪訝そうな態度を隠そうともしない。
警戒の気配を滲ませながら、それでいてどこか期待めいた感情を目に宿し、彼女はじっと私を見つめている。
「許嫁の件、母上に相談してみた。でも駄目だった。藍と僕の婚約は、今はまだ白紙にできない」
「……そう」
藍との結婚について私が積極的でないことを、藍は知っている。
それが、兄と藍の仲を古くから知っているという理由によるものだとも。
「だから、藍……これは護にもまだ言わないで。あと一年、僕に時間をください。一年後、僕たちの祝言が行われるまでに、僕は婚約を白紙にできるよう努める。それでも成せなかったなら、そのときは」
言葉の途中で、強い風が吹き抜けた。
巨木が鳴らした葉擦れの音に、自分の声が掻き消される。しかし、藍にはきちんと届いたようだ。大きな両目をさらに見開き、藍は私をじっと見つめ、そして泣きそうな顔でこくりと頷いた。
走り去っていく藍の背中を、私はぼんやりと眺め続けていた。
常々思い描いていたものの、他の人間には口外してこなかったある案を。
藍には先に伝えておいたほうがいい。
艶やかな風貌のせいでつい忘れてしまいそうになるが、藍はまだ十四歳の少女だ。その身に宿す苦悩は、できるだけ軽いほうが良い。
「藍」
「なぁに?」
「藍は、護と一緒になりたいんだよね」
「……ええ、そうよ」
私を見つめる藍は、怪訝そうな態度を隠そうともしない。
警戒の気配を滲ませながら、それでいてどこか期待めいた感情を目に宿し、彼女はじっと私を見つめている。
「許嫁の件、母上に相談してみた。でも駄目だった。藍と僕の婚約は、今はまだ白紙にできない」
「……そう」
藍との結婚について私が積極的でないことを、藍は知っている。
それが、兄と藍の仲を古くから知っているという理由によるものだとも。
「だから、藍……これは護にもまだ言わないで。あと一年、僕に時間をください。一年後、僕たちの祝言が行われるまでに、僕は婚約を白紙にできるよう努める。それでも成せなかったなら、そのときは」
言葉の途中で、強い風が吹き抜けた。
巨木が鳴らした葉擦れの音に、自分の声が掻き消される。しかし、藍にはきちんと届いたようだ。大きな両目をさらに見開き、藍は私をじっと見つめ、そして泣きそうな顔でこくりと頷いた。
走り去っていく藍の背中を、私はぼんやりと眺め続けていた。