柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 あなたの熱に溺れれば忘れていられる。
 何日経っても降りやまない雨のことも、ここへ来てからあなた以外の人をひとりとして見ていない事実も、全部。

 山奥の廃寺は廃寺ではなかった。そこには人がいて、古くても手入れの行き届いた本堂があった。
 けれど、なにもかもがおかしい。
 あなたは、寺院の敷地から外へ出かけない。一日二食、あるいは三食の食事をきちんとふたり分作って食べているはずなのに、食料が尽きる気配はない。湯浴みに使う湯を運ぶのは午後三時の十分前……その時間だけ毎日計ったように雨が弱まるからだ。

 まるで時間が経っていないかのよう。
 いや、正確には、同じ一日を延々と繰り返しているみたいだ。

 ぞわりと背筋が粟立った。

 あなたはなにか知っているのか。この寺院には、なにか私の知らない秘密があるのか。
 訊きたい。それなのに怖くて訊けない。訊いたら最後、あなたが消えていなくなってしまう気がする。理由なんて分からない、けれどそんなふうに思えてならなかった。

 だから、知らないままでいい。

 あなたの腕がきつく私を掻き抱く。
 口づけは、いつしか激しく貪るようなものに変わっていた。火傷しそうなそれに自ら溺れ、酔い痴れる。

 そうやって、なにより優先して考えるべきことを、私は今日もすべて放棄する。
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