柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
事前に調べた内容や聞いていた話と違う。
動揺を隠せず、「ここは廃寺だと聞いていたのですが」と零すと、「似たようなものです」とはぐらかされてしまった。
……どうしようか。
無人の廃寺でひとり、寺院の通称にも冠されている〝絵馬〟の奉納場所を探すつもりだったのに、想定外のできごとばかり起きる。
狐につままれたような気分はとてもすぐには拭いきれなかったけれど、どうやら本堂へ案内してくれるらしい。促されるまま、私は男性の隣を歩いて進む。
荷物を持ち込んで現れた、どう見ても不審者でしかない私を、彼は特段拒まなかった。
商店のお婆さんに告げた〝研究のため〟という嘘の言い訳を再び脳裏に巡らせたものの、特になにかを訊かれるでもない。かといって、ご自由に見学していってくださいと解放してくれるわけでもなかったから、怪しまれている可能性はある。
長い散策に疲れた私の歩幅は短い。それに合わせるように、彼はゆっくりと足を進めてくれる。その配慮が、今の私には心底ありがたかった。
歩きながら、彼はこの寺院の宗派や成り立ちについて簡単に教えてくれた。
要は、陸の孤島に等しい土地で脈々と受け継がれてきた独自信仰とともに長らえた寺院らしい。そういった話題に詳しくない私は、疲れも相まって話の大半を聞き流してしまった。研究のためなどという嘘をつかずに済んで本当に良かった、とひっそり胸を撫で下ろす。
齢は私とそう変わらなそうだ。でもなんとなく、相手のほうが年上かなと思う。
寺院の管理者――つまりは住職なのだろうけれど、こんなに若い人が、と驚きを隠せない。髪を剃っていないことも新鮮だった。寺院の住職といえば、親世代や祖父母世代の坊主頭の人物をイメージしてしまうから、余計に。
動揺を隠せず、「ここは廃寺だと聞いていたのですが」と零すと、「似たようなものです」とはぐらかされてしまった。
……どうしようか。
無人の廃寺でひとり、寺院の通称にも冠されている〝絵馬〟の奉納場所を探すつもりだったのに、想定外のできごとばかり起きる。
狐につままれたような気分はとてもすぐには拭いきれなかったけれど、どうやら本堂へ案内してくれるらしい。促されるまま、私は男性の隣を歩いて進む。
荷物を持ち込んで現れた、どう見ても不審者でしかない私を、彼は特段拒まなかった。
商店のお婆さんに告げた〝研究のため〟という嘘の言い訳を再び脳裏に巡らせたものの、特になにかを訊かれるでもない。かといって、ご自由に見学していってくださいと解放してくれるわけでもなかったから、怪しまれている可能性はある。
長い散策に疲れた私の歩幅は短い。それに合わせるように、彼はゆっくりと足を進めてくれる。その配慮が、今の私には心底ありがたかった。
歩きながら、彼はこの寺院の宗派や成り立ちについて簡単に教えてくれた。
要は、陸の孤島に等しい土地で脈々と受け継がれてきた独自信仰とともに長らえた寺院らしい。そういった話題に詳しくない私は、疲れも相まって話の大半を聞き流してしまった。研究のためなどという嘘をつかずに済んで本当に良かった、とひっそり胸を撫で下ろす。
齢は私とそう変わらなそうだ。でもなんとなく、相手のほうが年上かなと思う。
寺院の管理者――つまりは住職なのだろうけれど、こんなに若い人が、と驚きを隠せない。髪を剃っていないことも新鮮だった。寺院の住職といえば、親世代や祖父母世代の坊主頭の人物をイメージしてしまうから、余計に。