柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 しゃり、しゃり。
 雨に濡れた細かい砂利を踏み締めるふたり分の足音が、耳の奥に妙にはっきりと残る。

 傘の隙間から、ちらりと相手の顔を覗き見た。
 それぞれが差す傘のせいで見えにくい上、半端に距離が開いているから、詳細は窺えない。ただ、微かに覗いた相手の髪の色は、黒ではなく暗い灰色に見えた。
 染色でもしているのだろうか。和服――作務衣(さむえ)と呼ぶのだったか――と草履という和風の格好に、染色された髪。アンバランスだ。

 言葉遣いは丁寧で、物腰もやわらかく落ち着きがある。でも。
 無造作に伸びた相手の髪の毛先が、再び視界に映り込む。やはりちぐはぐな印象を抱いてしまう。彼が使っている黒い傘も、随分と年季が入っているように見えて、そのことが私の中で育ちつつある不可思議な感覚をなおさら煽った。

 本当に人間なのかな。
 しまいにはそんな疑問まで浮かび、私は慌ててそれを掻き消した。
 危ないところを助けてくれた人に対して、いくらなんでも失礼が過ぎる。

 気を紛らわそうと視線を上向けながら、私は内側から自分の傘を見つめた。
 遠方への旅行にもかかわらず、今回、私はお気に入りの傘を用意していた。どこに行ってもじめじめした梅雨の季節には変わりないから、せめて気に入った物を、と思ったのだ。
 鮮やかな赤色に惹かれ、就職したばかりの頃に購入した傘だ。とはいえ、こうした場所で使うには派手すぎる気がして、今さらながら身の縮む思いがする。まさかこの場所で人と遭遇するとは思っていなかったのだから、仕方がないと言えば仕方がない……いや、そんなことよりも。

 まだだろうか。だいぶ歩いた気がするのに、なかなか本堂に辿り着かない。
 それに、丁寧に案内してもらっているところ恐縮だけれど、できればさっさと目的を果たしてしまいたかった。
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