柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―

《三》赤く染まる

 果てなく続く暗闇は、空と地面の境界線を曖昧にする。
 見上げた先では、本堂の屋根の輪郭さえどこからどこまでなのか判断がつかない。光源がない中ではなにも見えなかった。

「風邪ひくよ」

 後方から声がかかり、振り返る。
 この暗闇の中、縁側に腰かける私がきちんと見えているらしい。古い廊下を軋ませながら、なにかにしがみついたり足をもたつかせたりする様子も見せず、声の主は難なく私の隣に並んで座る。

 肩を抱き寄せられ、私の身体は簡単に彼の側へ(かし)いだ。

 少し強引な仕種だったから、黙ってひとりで部屋を出てきたことを謝った。眠っているところを起こしてしまいたくなかった、と告げると、返事の代わりに唇が降ってきた。
 激しさこそ欠いていたけれど、私の言葉を遮るには十分な口づけだった。何度か啄むように音を立てた後、名残惜しそうに唇を離した尊さんは、無言で私の背に腕を回して抱き締めてくる。

「今日は、星、見えないんだね」

 抱き締められたきりで呟いた私の言葉に、尊さんは答えない。
 耳元で静かに呼吸を繰り返しているだけだ。

 この土地を訪れてから、私は一度も星空を見ていない。
 ここまでの道のりを考えるなら、ここはかなり高所のはずだし、さらには電気が通っていないから周囲は真っ暗だ。この寺院そのものが、人の暮らす空間からまるごと切り離されている。

 天候が良ければ、手の届きそうな満天の星が見られるのではないかと思う。けれど、今日もいつもと同じで、細い雨がしとしとと地面を濡らし続けるばかり。
 空は真っ黒で、星なんてひと粒も見つけられない。厚く重々しい雲の層が空を覆っているのだと、容易に想像がつく。
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