柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
「ねぇ、尊さん。私」

 このまま、ここにいてもいいのかな。
 口に乗せかけた続きの言葉が、喉を通り過ぎることはなかった。

 躊躇してしまう。数日間という約束で住み込みを承諾したのに、今の今まで、私は尊さんからその件について一度も説明を受けていない。
 元々、尊さんはずっとひとりで生活していた。私の手伝いが絶対に必要だったかと尋ねれば、返ってくる答えはおそらく否だ。結果的にこうして肌を重ねる仲になって、日夜睦言を囁き合って、過ぎった違和感を忘れそうになって……その繰り返し。

 言葉の途中で、私を抱き寄せる腕が微かに震えた。
 腕を伸ばして抱き締め返すと、尊さんは力を緩め、静かに口を開く。

「戻ろう。今夜は寒いから」

 普段より声が低い気がした。それから、震えている気も。
 今夜〝は〟。尊さんはそう言った。けれど、私は薄々勘づいてしまっている。天候、気温、雨の量、風向き――昨夜も今夜も明日の夜も、それらはきっと変わらない。降る雨の細さやそれが立てる音すら、多分同じだ。

 そのことを、私はいまだ尊さんに確認できずにいる。
 知ったら大切ななにかを失ってしまうのでは、と根拠のない不安に晒されているせいだ。そうこうしているうち、結局、別に知らなくてもいいじゃないかという結論に辿り着いてしまう。

「……うん」

 私の返事に応えるように、尊さんは腕に再び力を込めて薄く微笑んだ。
 暗闇の中、寂しげに笑う尊さんの顔が妙にはっきり見え、胸の奥がぎりりと軋んだ。
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