柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 眠りの淵を漂っていた意識が、ゆらゆらと浮上し始める。
 夢を見ていたことは覚えているけれど、詳細を思い出せない。追いかけようとすればするほど、それは輪郭を失ってぼやけ、薄まっていく。夢を見た朝特有のむずがゆさにも似た現象に、私は心の中で苦笑を零す。

 気怠さの中で目をこじ開けると、ピンク色の丸い石が見えた。
 痣の消えかけた左手首にかけられたそれは、数珠によく似たブレスレットのようだ。淡い色味のせいか、厳粛な雰囲気を漂わせる数珠とは異なり、可愛らしい印象を抱かせる。
 房はついていない。また、普通の数珠に比べるとやや小さい。手首にちょうど良く収まったところでそっと手を動かすと、そこに触れていた人物が微かに指を震わせた。

「あ、ごめんね。起こした?」
「ううん、いいの。夢、見てたみたい……これは?」

 空を覆っているのは今朝も雨雲だろう。それでも、窓から差し込んでくる光はすでに明るい。しっとりとした早朝の空気を感じつつ、枕に散らばった髪を直し、私はゆっくりと身体を起こした。

「ああ、ええと。この寺には古くから受け継がれてる数珠がいくつかあって、これはそのうちのひとつに手を加えて作ったものなんだ」
「作った? 尊さんが?」
「うん。その……明日名みたいな若い人には、宝石とか、そういうもののほうがいいのは分かってる。けど、僕にはこれくらいしか思いつかなくて」

 遠慮がちに続く声を聞きながら、胸の奥がつきりと軋んだ。
 ひとつひとつの大きさこそ控えめではあるけれど、数が数だけに、もはや単なる違和感では済まされない。この人の言葉に潜む違和感の数々を思い、私は震える吐息を零した。

 私、〝若い人〟かな。
 齢なんてあなたとそう変わらないと思うのに、どうしてそんな言い方をするんだろう。あなたは。
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