柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
頭に思い浮かんではいても、直接問う気はなかった。
知らなくても別に構わないからだ。
それでいて、私の心を覆い尽くしていくのはやはり恐怖だ。
追及すればあなたがいなくなってしまう――なにをもってそう思うのかさえ定かではない不確かな不安に、得体の知れない恐怖に、日を追うごとにますます強く拘束されていく。
過ぎった負の感情を振り払うように、私は正面へ向き直った。
窓の外から差し込んでくる光は相変わらず弱々しい。だというのに、目の前のあなたの頬はほんのりと赤く染まって見えた。
思わず身を乗り出して覗き込む。
よく見ると、耳まで真っ赤だ。
「その……この寺では、祝言を挙げるとき、夫婦になる者同士で数珠を渡し合うんだ」
祝言。
耳慣れない言い回しだったけれど、それが結婚を意味する言葉だとすぐに思い至る。
目を合わせてくれないのは恥ずかしがっているからか。
可愛い、綺麗だ、あれほどあけすけな言葉を顔色ひとつ変えず口にしていたあなたが?
「こんなのじゃなくて、いつかちゃんと、きちんとしたものを渡すから、……っ?」
布団から身を起こし、広い背中に腕を伸ばす。
羽織っていた襦袢が乱れてしまったけれど、そんなことはどうでも良かった。背中から首筋に腕を伸ばして巻きつけると、あなたは応えるように私を抱き締め返してくれる。
「嬉しい。だってこんなの、プロポーズみたい」
声が震えてしまう。
これほど嬉しいと感じたのはいつ以来だろう。初めてあなたと気持ちを通じ合わせた日も、もちろん嬉しかった。でも。
知らなくても別に構わないからだ。
それでいて、私の心を覆い尽くしていくのはやはり恐怖だ。
追及すればあなたがいなくなってしまう――なにをもってそう思うのかさえ定かではない不確かな不安に、得体の知れない恐怖に、日を追うごとにますます強く拘束されていく。
過ぎった負の感情を振り払うように、私は正面へ向き直った。
窓の外から差し込んでくる光は相変わらず弱々しい。だというのに、目の前のあなたの頬はほんのりと赤く染まって見えた。
思わず身を乗り出して覗き込む。
よく見ると、耳まで真っ赤だ。
「その……この寺では、祝言を挙げるとき、夫婦になる者同士で数珠を渡し合うんだ」
祝言。
耳慣れない言い回しだったけれど、それが結婚を意味する言葉だとすぐに思い至る。
目を合わせてくれないのは恥ずかしがっているからか。
可愛い、綺麗だ、あれほどあけすけな言葉を顔色ひとつ変えず口にしていたあなたが?
「こんなのじゃなくて、いつかちゃんと、きちんとしたものを渡すから、……っ?」
布団から身を起こし、広い背中に腕を伸ばす。
羽織っていた襦袢が乱れてしまったけれど、そんなことはどうでも良かった。背中から首筋に腕を伸ばして巻きつけると、あなたは応えるように私を抱き締め返してくれる。
「嬉しい。だってこんなの、プロポーズみたい」
声が震えてしまう。
これほど嬉しいと感じたのはいつ以来だろう。初めてあなたと気持ちを通じ合わせた日も、もちろん嬉しかった。でも。