柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
〈手記・三〉

 藍は、寺院の縁者の中でも、幼い頃から目立って高い能力を見せていたひとりだ。

 我々双子と藍は従兄妹に当たる。彼女は母の妹、すなわち叔母の子だ。
 母と異なり、叔母には目立った能力がなかった。だが、娘の藍にはしっかりと受け継がれたらしい。藍にはふたつ齢の離れた妹・澪がいるが、澪には特筆すべき能力は見られないと聞いていた。

 藍の力は、彼岸と此岸、どちらの時間もその身に受けつけられるという特殊なものだ。
 対岸へ干渉する力を使えば使うほど、藍の場合は加齢が早まる。そのため、どれだけ高い能力を秘めていても、藍には死後婚の儀は担わせられないとされていた。
 無論、藍個人を心配しての判断ではない。藍が出産できる期間をできる限り縮めないようにという重鎮たちの考えが見え透いていた。

 幼い頃は制御のしようがなく、藍の加齢は進む一方だったが、数年前、一族の者が力を制御するための拘束具作りに成功した。
 以来、藍はそれを身に着けることで当座をしのいでいる。

 高い能力を持つ者は、同じく高い能力を持つ者と婚姻を結び、子孫を残す。
 それが我が安斎家の常識でありすべてだ。だからこそ、藍は生まれたその日に兄の許嫁となった。

 藍の痣は大きさこそ控えめだが、鮮明に蓮の花の形を描いている。喉の下に覗くそれは、藍が年頃の女性と変わらぬ風貌となって以降、ひどく扇情的に見えた。
 藍なら、強い力を子孫に残せる。誰もがそう思っていた。しかし、藍が十歳、私たちが十八歳のときに、運命は大きくねじ曲げられた。

 藍は兄との婚約を解消させられ、間を置かず、私の許嫁となることを余儀なくされた。
 愛する男と同じ顔をした別人。そんな男と交わり、子を成す。それもひとりでは足りず、年齢と体力が許す限り産み続けろと命じられるに決まっている。

 私も心苦しくて堪らなかった。
 藍が心から兄を慕っている、それは周知の事実だ。にもかかわらず、重鎮どもはふたりの苦悩を横目に、藍を抱け、子を成せと声高に私を追い詰める。狂っているとしか思えない。

 私は抗うつもりだった。ところが、兄は声をあげなかった。
 兄とて藍をあれほど可愛がっていたのだ。ふたりが婚姻を結べるなら、誰の元にも幸福が訪れただろうに。
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