柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
「すまない……」

 昨年、大木の下で藍と交わした約束を思い出し、呻くような声が零れた。
 すまない、藍。僕はなにも変えられなかった。だから、せめてあの約束だけは守らせてくれないか。

『僕たちの祝言が行われるまでに、僕は婚約を白紙にできるよう努める。それでも成せなかったなら、そのときは、護との間に子をもうけてほしい』

 ――心から、そう思っていたのに。

 あの日の自分は、護にはまだ伝えるなと藍に念を押した。
 護を下手に逆上させてはまずいと思ったからだ。それが、まさかこんな形で裏目に出るなど。

「……は」

 己の半身とも呼ぶべき双子の兄に恨まれ、厭われ、憎まれ、挙句の果てに刃を向けられている。一体どこまで空虚なのか。
 笑いとも吐息とも取れぬ声が、灼けて爛れた喉から零れ落ちる。
 同時に思う。護は、なぜ今日という日にこんなことをしでかしたのか。まともに働かぬ頭でぼんやりと考えながら、目尻に皺が寄る。私のその仕種を、兄は苦痛の表れと受け取ったのか、わずかに刃先を迷わせた。

 もしかして、藍を奪われたくなかったからだろうか。
 そう考えると腑に落ちる気がした。私を標的にする理由も、私の徴を執拗に狙う理由も、すべて。

 護は思い違いをしている。藍の気持ちを無視する気は、私にははなからない。
 形だけの婚姻を結んだ後、藍がそうしたいなら兄を選べば良いし、子は兄との間にもうければ良い。そのどちらについても、藍には一年も前のうちに伝えてある。
 私たちは双子だ。もし藍が護の子を宿したとして、私の子ということにしておいても誰も疑わない。

 力の継承など、それこそ知ったことではない。
 力ばかりに着目し、我々の心を無視し続けてきたのは一族の老人たちだ。私たちより先に死にゆく奴らの考えを、どうして優先してやる必要がある。
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