柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 そう、あいつらが邪魔なんだ。
 あいつらさえ消えてくれれば、腐りきったこの寺院の再建は今度こそ叶うかもしれない。あと十年、もう二十年経てば、きっと。

 護が跡継ぎに決まった後、重鎮たちの間で、私を禁忌の儀に携わらせようとする動きがあったらしい。
 決定の翌年には誘いがかけられる手筈だったところを、『尊は護に万が一の事態が及んだ際の唯一の代わりだ』と、母が必死に遠ざけたという。

 その母も他界した。
 最期の頃にはすっかり痩せ細り、疲れ果てた顔をしていた。

『お前の力を安易に穢させたくなかっただけさ』

 死の数日前、母は私を呼び出してそう呟いた。
 布団に横たわる細い身体と向き合いながら、なにも言えず、私は母の弱々しい微笑みを眺めているしかできなかった。

『護が跡継ぎに決まったときに、お前を儀に立ち会わせるのをやめるべきだった』

 それが母の最期の言葉となった。
 母は苦しんでいた。己の判断違いが、ふたりの子供のどちらをも苦しめる結果になってしまったこと。私を伴って死後婚の儀に臨み続けなければ、重鎮たちとて私の力の変貌には気づけなかっただろうこと。あらゆる選択を悔いながら死んでいくしかなかったのだ、母は。

 兄よりも私のほうが祭祀者にふさわしいと思ったからこそ、母は死後婚の儀に私を立ち会わせ続け、躍起になってまで私を禁忌の儀から遠ざけた。
 もしかすると、私たちふたりにも、住職と祭祀者それぞれの任を担わせたいと考えていたのかもしれない。私たちが背負うものを、少しでも軽くするために。

 しかしそれを実現させるには、母の発言権は弱すぎた。
 ふたつの責務をどちらも外されるか、あるいはどちらも背負わされるか。跡継ぎという概念に対する兄と私の価値観は、そもそも大きく異なっている。だから兄は壊れてしまった。
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