柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
すべてが私の望みと懸け離れている。
おそらくは、母が願ったものとも大きく形を違えてしまっている。
外見上の理由から、私は要らぬ敵意を向けられがちだ。
貶められやすい立場にある私が兄にさえ背を向けられること、そしてそのせいで私が負う羽目になるだろう絶望の深さを、母が理解していなかったとは思えない。
母は、兄と私に手を取り合ってほしいと願っていた。
だが、今となってはそれも叶わない。
変えられない流れに逆らえぬまま生き長らえざるを得ない苦痛。
母が強制されていたその苦しみは、結局、私にも兄にも平等に引き継がれてしまった。
「兄さまッ!!」
耳を刺す甲高い悲鳴に、はっと現実に引き戻される。
藍だった。先刻の私の悲鳴を耳にしたのか、派手に息を乱し、藍は部屋の中に飛び込んでくる。
彼女の目にも見えたに違いなかった。形だけとはいえ翌日には夫となる男に、己の恋い慕う男が馬乗りになり、その喉元目がけて刃を振り下ろそうとしているさまを。
私たち双子は同じ顔をしている。だが、纏う色が決定的に違う。暗がりの中ではあったが、藍には判別がついたはずだ。それでなくとも、幼い頃から護に想いを寄せてきた藍が、私と護を見間違えるなどあり得ない。
兄は分かりやすく躊躇を覗かせた。その隙を突き、私は兄が取り落とした小刀を拾い上げた。半狂乱になってそれを奪い返そうとしてくる兄と、間を置かず揉み合いになった。
危ない、落ち着け、なにを言っても兄は聞く耳を持たない。藍の制止の声すら少しも届いていない様子だった。
「兄さま、護兄さま、聞いて! 違うの、尊兄さまは……!!」
「黙ってくれ藍!! 尊、お前さえ……お前さえいなければ、俺はッ!!」
兄の手が露骨に震え、小刀の柄がそこから外れ落ちる。
おそらくは、母が願ったものとも大きく形を違えてしまっている。
外見上の理由から、私は要らぬ敵意を向けられがちだ。
貶められやすい立場にある私が兄にさえ背を向けられること、そしてそのせいで私が負う羽目になるだろう絶望の深さを、母が理解していなかったとは思えない。
母は、兄と私に手を取り合ってほしいと願っていた。
だが、今となってはそれも叶わない。
変えられない流れに逆らえぬまま生き長らえざるを得ない苦痛。
母が強制されていたその苦しみは、結局、私にも兄にも平等に引き継がれてしまった。
「兄さまッ!!」
耳を刺す甲高い悲鳴に、はっと現実に引き戻される。
藍だった。先刻の私の悲鳴を耳にしたのか、派手に息を乱し、藍は部屋の中に飛び込んでくる。
彼女の目にも見えたに違いなかった。形だけとはいえ翌日には夫となる男に、己の恋い慕う男が馬乗りになり、その喉元目がけて刃を振り下ろそうとしているさまを。
私たち双子は同じ顔をしている。だが、纏う色が決定的に違う。暗がりの中ではあったが、藍には判別がついたはずだ。それでなくとも、幼い頃から護に想いを寄せてきた藍が、私と護を見間違えるなどあり得ない。
兄は分かりやすく躊躇を覗かせた。その隙を突き、私は兄が取り落とした小刀を拾い上げた。半狂乱になってそれを奪い返そうとしてくる兄と、間を置かず揉み合いになった。
危ない、落ち着け、なにを言っても兄は聞く耳を持たない。藍の制止の声すら少しも届いていない様子だった。
「兄さま、護兄さま、聞いて! 違うの、尊兄さまは……!!」
「黙ってくれ藍!! 尊、お前さえ……お前さえいなければ、俺はッ!!」
兄の手が露骨に震え、小刀の柄がそこから外れ落ちる。