柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
「明日名。このまま、ふたりで死んでしまおうか」

 弱々しい声だった。
 耳元で囁かれなかったら、この静寂の中でも聞き逃してしまっただろうと思うほどの。

 彼の腕からは震えが抜けない。手のひらを添えた背中からも、少しも。
 ……どうしてそんなことを。あなたは、人を呪う言葉を吐き続けていた私を、あんなにも優しく諭してくれた人なのに。

 分からない。
 いつものあなたと、まるで別人のよう。

「尊さん、なに、を」
「だって、君を殺して、絵馬に君と僕の名前を書けば、僕らはずっと一緒にいられるんだよ」

 真正面から私を見つめながらも、どこか焦点の合っていないあなたの視線は、暗がりの中であけすけな狂気を放っている。普段からは想像もつかない乾ききったあなたの声が、私の頭を余計に掻き乱す。
 絵馬の伝承が不確かなものだと教えてくれたのは、他ならぬあなた自身だ。それなのに、どうして。

 あり得ない。
 けれど、その否定を貫き続けるには、今の私は心が乱れすぎている。

「あいつには渡さない。明日名、お願いだ。僕を置いていかないで」
「え……?」
「そんなことを強いられるくらいなら、僕は」

 抱き寄せられていた身体から、あなたの両腕がぱたりと外れた。
 途端に体温が下がっていく気にさせられる。首に手をかけられていたときと同じように、私の身体は寒気を覚えて、冷えて、心まで凍りついていく。
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