柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
「尊さん。私は」

 分からない。あなたが、なにを考えているのか。
 明確に分かっているのは、あなたも深く傷ついているということだけ。首を絞められ、命を奪われるところだった私と同じように。あるいは私以上に。

 まともな神経をしていないと思った。無論、自分自身に対して。
 力なく落ちた腕に触れると、あなたはびくりと肩を震わせた。正面から覗いたあなたの瞳には、先ほど感じた狂気はもう宿っていない。痛々しさを纏わせたそこから、ひと粒、ぽろりと水滴が零れるさまを見て取った。
 背中に置いていた手を首元へ動かしていく。そこに両腕を巻きつけてきつく抱き締め、私は衝動に任せてあなたの唇を奪った。

 どうしてそんなに悲しそうに泣くの? 私はどうしたらいい?
 あいつって誰? この耳鳴りとなにか関係があるの? 私たち、一緒に死んだら幸せになれるの? 死なないままでは、駄目なの?

 だって、私、やっとまた生きていたいと思えるようになったのに。
 なにもかも、全部あなたのおかげなのに。

「ごめん……」

 震えるあなたの声を、もう、少しも聞いていたくなかった。
 薄く開いた口の隙間をすぐに塞ぐ。しとしとと続く雨音の中で交わす口づけは、混ざり合ったふたり分の涙の味がした。
< 88 / 185 >

この作品をシェア

pagetop