柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 まだ違和感の残る首筋を、尊さんは長い指で何度もなぞる。
 労りに満ちた指に、私をどうこうしようという意思はもう宿っていない。懺悔によく似た緩慢な動きは、むしろ私に安堵を連れてくる。今さっき、私を手にかけようとしていたそれと同じ指であるにもかかわらず。

 静かに目を閉じる。
 あんなひどいことをされても、この人を受け入れそうになっている。そんな私は、とっくに狂っているのかもしれなかった。

「明日名、身体はつらくない? ごめんね、放してあげられなくて」
「いいの。私、尊さんが好きだから」

 首を撫でるそれとは逆の手で、尊さんは私の髪を梳いている。好き、と私が口にした途端、長い指の先が派手に震えた。
 広い胸元に頭を擦りつける。再び目尻を濡らした涙を見られずに済むよう蹲っていると、尊さんは私の首からも髪からも手を放し、そっと私を抱き寄せた。

「明日名。君は、ここにいてはいけないんだ」
「……え?」
「もう気づいてるでしょう? ここでは時間が経っていない。同じ一日が繰り返されているだけだ」

 背筋が震える。長く感じ続けてきた違和感の正体について、尊さん自身が口にしたのは初めてだった。
 やまない雨。尽きない食料。毎日同じ時間にわずかに開く雲の切れ間。確かに、すでにごまかしの利かないところまで来ていた。けれど、実際に言葉にしてしまうことを恐れていたのも事実だ。

 だから避けていたのに、まさか彼のほうから切り出してくるとは。
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