柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 ……まただ。
 本堂まで延びる廊下を進む途中、強い眩暈に襲われ、私は足元をよろめかせた。

 縁側で彼と語り合った日から三日、いや、四日が過ぎただろうか。
 今日の眩暈はいつもよりひどい。雨の音と耳鳴りが重なり、気分の悪さは次第に吐き気へと変化していく。

 それは、十代の頃から私を苛み続けている貧血の症状によく似ていた。
 けれど、それとは決定的に違う気もする。そういえば、生理中にもこうなることがあった……生理中にも。

 前に生理が来たのは、いつだった?

 浮かんだ自問に、ぎり、と心臓が軋んだ。
 途端に震え出した指先を、もう片方の手で無理やり押さえつける。ぐるぐると視界が回り、ついに立っていられなくなった私は、廊下の端で自分の身体を抱き締めるように蹲った。

 大丈夫。尊さんだってそう言っていた。
 ここでは時間が経っていなくて、同じ一日を繰り返しているだけ。生理なんて、ここにいる限りは来ないのかもしれない。

 ――違う。

 う、と呻きが零れた。
 もう無理だ。どれもこれも、いつまでもごまかし続けていられるわけがない。

『孕んでくれればいいのに』
『ここではそんなこと、絶対に叶わないけど』

 ねぇ尊さん。もしかしたら、私。
 震える指で下腹に触れると、乱れた呼吸が少しずつ落ち着いていく。
< 95 / 185 >

この作品をシェア

pagetop