柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 気のせいかもしれない。
 彼から非現実的な話を聞いたばかりだから、余計にそういう気がしてしまうのかも。

 けれど、その考えを否定できる要素も、確かに存在している。
 この辺りには、病院もなければ医師もいない。もし妊娠しているなら検診を受けなければならないし、なにより、ずっとここで過ごしていては無事に産んであげられるかどうかすら保証がない。

『ここでは時間が経っていない』

 彼はそう言った。そうと判断できる事象を、私だって何度も体験している。
 終わらない梅雨の季節、決まった時間に弱まる雨、減ることのない食料や日用品の類。日々、時間がリセットされている感覚は十分すぎるほどあった。

 けれど、そうではないものもある。

 ここを訪れた当初、私は生理中だった。もう終盤に差しかかっていた。つらい痛みが和らぎ始めた頃だったから、よく覚えている。顔を合わせたばかりの男の人にその手の事情を伝える気は起きなかったから、口には出さなかっただけだ。

 予定通り、生理はここを訪れて三日が経過する頃には終わった。
 終わったのだ。時間が流れていないなら、同じ一日を繰り返しているなら、終わらないだろうに。
 そうしたできごとがあったからこそ、この場所が紡ぐ時間の流れの異常に気づくのに遅れたと言っても過言ではなかった。

 また、ここを目指してきたのが梅雨の季節だったことも認識の遅れに繋がった。
 例えば真夏や秋、冬などに訪れていれば、ひたすら雨が続くこの天候に、すぐにも違和感を覚えたはずだ。
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