柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 それから、手首の痣。
 あれほど青黒い色をしていた痣は、今ではほぼ普通の肌色に戻ってしまった。痛みももうほとんどない。それは尊さんも知っている。今も、彼は薬湯を用意しながら毎日そこを擦ってくれるから。

 元の肌色に近づいた私の手首を驚いたように凝視していた、いつかの尊さんの双眸を思い出す。
 ねえ、尊さんもそれをおかしいと思ったんじゃないの?
 時間の動かないこの場所で、私の身体だけが時間を重ねていることに、あなたも薄々気づいてるんじゃないの?

『あのね、尊さん。私、生理が遅れてるみたい』
『……せいり?』
『あ、ええと。月のもの、って言ったら分かる?』
『……え?』
『ここに来たときは一度あったの。でも』

 強すぎる眩暈と体調不良のせいで、昨日は丸一日布団から出られなかった。
 そんな私を、尊さんも無理に抱こうとはしなかった。

 過ぎた不安に思わず口をついた言葉を、不意に思い出す。
 生理が来ない――労るように背中を擦ってくれていた尊さんが、私の報告を耳にした直後、動揺の滲む視線を向けてきたことも。

 思案げに目を細めた尊さんは、そのまま私を抱き寄せ、続く言葉を奪ってしまった。

『大丈夫だよ』

 耳元で囁かれたそれは、私を安心させる魔法の言葉だ。
 以前、痛む手首のために薬湯を用意してくれたときにも同じ言葉をかけられた。あの日は心底安堵して、けれど、今は。
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