追放された搾りカス聖女は、第二の人生を謳歌する。なのに、激重騎士隊長が放してくれません! なんであんたぁ、ここにいるんだべ!?
コケコッコー。
鶏の鳴き声で目を覚ますと、目の前には染みだらけの変色した天井が見えた。
ほっとして、息を吐く。良かった、神殿ではなかった。
ここへ戻ってきてから数日経つのに、まだ、神殿の頃の悪夢を見てしまう。
そして、毎朝目を覚ましては、ほっとするのだ。
「……じぃちゃん、もう起きてっかな……」
私の家族はじぃちゃんだけだ。両親はまだ幼い頃に流行り病で亡くなった。それから、じぃちゃんが一人で私を育ててくれた。
私が十三歳になったある日、神殿から迎えが来た。神殿が私の聖魔法を感知したというのだ。
魔力が他の聖女より膨大であると分かり、私は第一聖女となる。
それからというもの、第二聖女ベルニカや、他の聖女達からの嫌がらせや、仕事の押し付けは日常茶飯だった。
いつか、田舎へ帰ることだけを夢見て、日々働いて働いて働いてきた私は、念願の搾りカスになった。
じぃちゃんお手製のトマトスープと、パサパサパンの朝食を済ますと、私は準備を始めた。
腰にはエプロン、頭にはカーチフをきゅっときつく巻いた。使い古された革のブーツを履いて、籠を背負う。
これから、じぃちゃんの畑仕事を手伝うのだ。
鈴なりに赤くなった実ったトマトを、一つずつ丁寧にもぎ取って籠入れていく。
「うふふっ、うまそうだぁ」
しばらく収穫に集中していると、隣の畑にいたじぃちゃんがこちらにやってきた。
じぃちゃんは遠くに視線を向けながら、私に顔を寄せてヒソヒソと話し始める。
「コレットや。なんじゃ、さっきからあそこに見掛けない怪しい大男がいるべ。気を付けろぉ」
(怪しい大男……?)
この辺りはみんな顔見知りの村民ばかりで、見知らぬ人がいればすぐに分かる。
不審に思いつつ畑道の先の方に視線を送ると、私は息を呑んだ。
見覚えのある騎士服姿の男性が、こちらに向かってくるではないか。
あの赤茶色の髪、がっしりとした身体に、あの隙のない凛とした佇まい。
(ちょ、ちょ、ちょっとぉ! あれって、ロヴァルト様だべ!? な、なんで、ここにいんのー!?)
私は慌ててカーチフを目深に被り直し、顔を伏せる。
ザッ、ザッ……。
砂煙と共にロヴァルト様が近づいてきた。
「そこの者。私は王都騎士団神殿専属部隊隊長ガルド・ロヴァルトであるが、少々お尋ねしたい。宜しいか?」
ロヴァルト様が丁寧に私達に名乗る。
(やっぱりロヴァルト様だ、って、ロヴァルト様がこんなに喋んの初めて聞いたべ)
私が硬直してる横で、じぃちゃんは目を白黒させている。
「へっ、王都の騎士様ですかい!? な、なんでございますかのぉ?」
「うむ。この辺りに、神殿の元第一聖女、コレット・ブラウン殿の住まう屋敷があるはずだが、ご存知か?」
自分の名前が出てきて、息が止まりそうになる。
(な、なんで私を探してんべ!? もう、神殿とは関わりはないはずなのにっ。しかも、屋敷って何さ? ただの掘っ立て小屋だって!)
「はぁ……、コレット・ブラウンですかい……?」
「そうだ。……とても麗しく可憐、かつ、気高き聖女だ……っ」
ロヴァルト様から飛び出した発言に、耳を疑う。
(はっ!? 誰それ? それ、私じゃないべ!?)
じぃちゃんがそれを聞いて、戸惑いながら私の顔をチラリと見る。
私はロヴァルト様にバレないように、じぃちゃんに向かって口に人差し指を立てて首を振った。
「ん? 御婦人、何かご存知か?」
「ひぃっ、いえ。……あ! たしかあっちの山の向こう側にそんな人がいたような、ずっとずーっと、あっちですよ!」
私は遠くに見える山に向かって、指差す。
「山……?」
「はいはい、そうですそうです!」
私はコクコクと首を縦に振る。
(は、早くどっか行ってぇ〜!)
「……少々、失礼する」
ロヴァルト様は小さく呟くと、私の被っているカーチフに手をかけ引っ張った。
(……はっ!?)
カーチフが外れると、長い髪がバサリとほどけて肩に落ちる。
「……な、な……っ、……あんたぁ、なにすんだやっ。レディの頭巾を勝手に取るなんてぇ……っ!」
「ブ、ブラウン殿……?」
目を見開き、驚いた表情のロヴァルト様。
(……あっ、しまった……。バレた。……色々、バレた……)
鶏の鳴き声で目を覚ますと、目の前には染みだらけの変色した天井が見えた。
ほっとして、息を吐く。良かった、神殿ではなかった。
ここへ戻ってきてから数日経つのに、まだ、神殿の頃の悪夢を見てしまう。
そして、毎朝目を覚ましては、ほっとするのだ。
「……じぃちゃん、もう起きてっかな……」
私の家族はじぃちゃんだけだ。両親はまだ幼い頃に流行り病で亡くなった。それから、じぃちゃんが一人で私を育ててくれた。
私が十三歳になったある日、神殿から迎えが来た。神殿が私の聖魔法を感知したというのだ。
魔力が他の聖女より膨大であると分かり、私は第一聖女となる。
それからというもの、第二聖女ベルニカや、他の聖女達からの嫌がらせや、仕事の押し付けは日常茶飯だった。
いつか、田舎へ帰ることだけを夢見て、日々働いて働いて働いてきた私は、念願の搾りカスになった。
じぃちゃんお手製のトマトスープと、パサパサパンの朝食を済ますと、私は準備を始めた。
腰にはエプロン、頭にはカーチフをきゅっときつく巻いた。使い古された革のブーツを履いて、籠を背負う。
これから、じぃちゃんの畑仕事を手伝うのだ。
鈴なりに赤くなった実ったトマトを、一つずつ丁寧にもぎ取って籠入れていく。
「うふふっ、うまそうだぁ」
しばらく収穫に集中していると、隣の畑にいたじぃちゃんがこちらにやってきた。
じぃちゃんは遠くに視線を向けながら、私に顔を寄せてヒソヒソと話し始める。
「コレットや。なんじゃ、さっきからあそこに見掛けない怪しい大男がいるべ。気を付けろぉ」
(怪しい大男……?)
この辺りはみんな顔見知りの村民ばかりで、見知らぬ人がいればすぐに分かる。
不審に思いつつ畑道の先の方に視線を送ると、私は息を呑んだ。
見覚えのある騎士服姿の男性が、こちらに向かってくるではないか。
あの赤茶色の髪、がっしりとした身体に、あの隙のない凛とした佇まい。
(ちょ、ちょ、ちょっとぉ! あれって、ロヴァルト様だべ!? な、なんで、ここにいんのー!?)
私は慌ててカーチフを目深に被り直し、顔を伏せる。
ザッ、ザッ……。
砂煙と共にロヴァルト様が近づいてきた。
「そこの者。私は王都騎士団神殿専属部隊隊長ガルド・ロヴァルトであるが、少々お尋ねしたい。宜しいか?」
ロヴァルト様が丁寧に私達に名乗る。
(やっぱりロヴァルト様だ、って、ロヴァルト様がこんなに喋んの初めて聞いたべ)
私が硬直してる横で、じぃちゃんは目を白黒させている。
「へっ、王都の騎士様ですかい!? な、なんでございますかのぉ?」
「うむ。この辺りに、神殿の元第一聖女、コレット・ブラウン殿の住まう屋敷があるはずだが、ご存知か?」
自分の名前が出てきて、息が止まりそうになる。
(な、なんで私を探してんべ!? もう、神殿とは関わりはないはずなのにっ。しかも、屋敷って何さ? ただの掘っ立て小屋だって!)
「はぁ……、コレット・ブラウンですかい……?」
「そうだ。……とても麗しく可憐、かつ、気高き聖女だ……っ」
ロヴァルト様から飛び出した発言に、耳を疑う。
(はっ!? 誰それ? それ、私じゃないべ!?)
じぃちゃんがそれを聞いて、戸惑いながら私の顔をチラリと見る。
私はロヴァルト様にバレないように、じぃちゃんに向かって口に人差し指を立てて首を振った。
「ん? 御婦人、何かご存知か?」
「ひぃっ、いえ。……あ! たしかあっちの山の向こう側にそんな人がいたような、ずっとずーっと、あっちですよ!」
私は遠くに見える山に向かって、指差す。
「山……?」
「はいはい、そうですそうです!」
私はコクコクと首を縦に振る。
(は、早くどっか行ってぇ〜!)
「……少々、失礼する」
ロヴァルト様は小さく呟くと、私の被っているカーチフに手をかけ引っ張った。
(……はっ!?)
カーチフが外れると、長い髪がバサリとほどけて肩に落ちる。
「……な、な……っ、……あんたぁ、なにすんだやっ。レディの頭巾を勝手に取るなんてぇ……っ!」
「ブ、ブラウン殿……?」
目を見開き、驚いた表情のロヴァルト様。
(……あっ、しまった……。バレた。……色々、バレた……)


