追放された搾りカス聖女は、第二の人生を謳歌する。なのに、激重騎士隊長が放してくれません! なんであんたぁ、ここにいるんだべ!?

 トマト畑に突如現れた大男、ロヴァルト様にバレてしまった。私の居場所も、この言葉遣いも。
 バレてしまったなら、もうヤケだ。

「っていうか、あんたぁ、なんでここにいるんだべ!?」
 私はロヴァルト様を問いただす。

 彼は神殿専属の騎士だ。神殿の警護や、第一聖女に就任したベルニカの護衛のはず。
 こんな辺鄙な田舎の村にいるなんて、おかしいのだ。

「……」
 私の問いかけにロヴァルト様は黙り込み、こちらを睨みつけている。
 私のことが嫌いでも、この村に来たということは、神殿から言い付けられて来たということか。

(……監視? 私が神殿に逆恨みでもするかもって? ……まだ、神殿から逃げられんの?)

「……私は、別に神殿を恨んでません。ですから、安心してお帰りくださいっ」
 私はロヴァルト様の目を見て、はっきりと告げる。

 ロヴァルト様の息を呑む音が聞こえた。そして、何か呟く。
「……っ。……尊……い……っ」

(ん? とーと?)

 よく聞き取れない。ロヴァルト様は気に入らないのか、まだこちらを睨んでいる。
 私も負けじと睨み返していると――。

「まぁまぁ、二人とも。そう睨み合ってねぇで、ほら、トマトでも食いなぁ」

 じぃちゃんが私たちの間に入り、ロヴァルト様に採れたてのトマトを差し出す。
 
「え、じぃちゃん、さすがにそのままじゃ……っ」
 ロヴァルト様は貴族出身だ。トマトをそのまま差し出すなんて失礼なのではと、止めに入る。

「……いただこう」
 ロヴァルト様は気にせず、トマトを受け取り豪快にかぶりついた。

「……っ、……甘いっ」

 そう言って薄茶色の瞳を輝かせる。いつも表情を変えないロヴァルト様の、そんな顔は初めて見た。
 気に入ってくれたらしく、むしゃむしゃとあっという間に平らげる。

「おぅ、いい食べっぷりじゃ。もう一ついるかぁ?」
 じぃちゃんがトマトを差し出す。
「じぃちゃんっ」
 もうさすがに……って、止めようと声をかける。

「……いただこう」
「……え?」

 ロヴァルト様はその後も止まらずに、トマトを五つもペロリと平らげた。

「……ご老人、ご馳走になった」
 そう言うと、手で口元を拭う。

「ふぉっふぉっふぉっ。気に入っていただけて、何よりじゃ」
 じぃちゃんは満足げに微笑む。
 さすがじぃちゃんだ。騎士隊長様相手にも臆することはない。

 ふとロヴァルト様の騎士服の胸の辺りが、汚れているのに気付く。トマトの汁が飛んだのかもしれない。
 早く拭かないとシミになってしまう。
 私はエプロンからハンカチを取り出す。

「ロヴァルト様、服にトマトの汁が付いてます。……ちょっと失礼しますね」
「……っ!?」

 私は近づき、トマトの汁を拭き取るが、だいぶ染み込んでしまったようで色が落ちなかった。

「んん? なかなか落ちない……。一度濡らしたほうがいいべか……?」
「……て、ん……し……」
 一生懸命に擦っていると、頭上から声が聞こえてきて顔を上げる。

「え? 何ですか?」
 至近距離で目が合った。

「――っ。死……っ」
 ロヴァルト様は顔を真っ赤にし急に震え出して、口を押さえた。

「え? 何だべ!? 食べ過ぎ? 吐く? お腹痛いべ!?」
 

 ――ガルド's  poem――
 
 天使が舞い降りた

 輝く琥珀色の髪をたなびかせ トマト畑に現れた
 その朝露のような澄んだ瞳が こちらに注がれる

 小鳥のようなその美しい声を この俺が忘れるはずがなかろう

 ……あぁ、天使よ。許したまえ。

 貴女の秘密を暴いてしまったことを
 俺の命が必要なら 奪ってくれて構わない
 
 俺は 貴女のその赤き唇から紡がれた旋律を 胸に抱きながら
 ――今ここで 朽ち果てたとしても 悔いはない

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