辺境のちっちゃな捨てられ領主は敵国女帝のお気に入りのようです~転生幼児、最強の家族とスキルを持つ秘密兵器でした~
 あの日、父はトーリの顔を見ることなく部屋を出ていった。母はハンカチを鼻に当てて、しっしとトーリを追い払うような仕草をした。

(僕が今、怒っていないのは、本当だ)

 不思議なことに、今ここに立って父の顔を見ていても、怒りは来なかった。悲しみも、なかった。そんな感情が浮かんでくるのではないかと思っていたのに。
 今さら――そう、今さらなのだ。
 トーリは、ゆっくりと首を横に振った。

「……帰りません。僕の居場所は、ここです」

 父は、何か言おうとして、口を閉じた。それからもう一度開いて、また閉じた。
 トーリには、父が何を言いたいのかわかる気がした。
 すまなかった。間違えた、もう一度やり直したい、お前のことを大切に思っていた。全部、本当のことかもしれない。
 だが、どんな言葉を選んでもトーリの心には響かない。

「ラプハート家の財政は、身代金で相当苦しくなると思う。でも、それが陛下の出した答えだから」
「……そうか」
「父上を、殺してほしいとは言いませんでした。でも、僕にはもう関わらないでほしい」

 ラプハート家にトーリの場所はない。
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