時をかける恋の舞台
とろみのコーヒーと、手作りのティッシュ入れ
たぬきケーキを食べ終えると、愛斗はありさと唇を重ねた。夜の八時になり、愛斗は正子の姿になり、二人は一緒にお風呂に入り、そのまま寄り添って眠りについた。
朝が来て目覚めた二人は、昼過ぎまで家でゆっくり過ごした。それからありさ、高、涼子と待ち合わせ、四人はコメダコーヒーへと向かった。
店内に入ると、愛斗は涼子に声をかけた。
「涼子さん、ここにはとろみの入ったコーヒーがあるんだ。飲んでみる?」
「とろみがついてるなら、私でも飲めるかもしれないわ」
「そうなんだ。一度試してみて」
四人はメニューを開き、それぞれ注文を済ませて話を続けていると、ほどなくして飲み物が届いた。
「涼子さん、ゆっくり飲んでね。急いだらだめだよ」
「うん、わかった。ありがとう」
涼子は砂糖とミルクを加え、そっと口をつけた。だが次の瞬間、涼子は肩を震わせて咳き込んだ。
「大丈夫? 熱かったの?」
「うん、熱かっただけだよ。ごめんね」
「本当に大丈夫? 無理しないでね」
「うん。冷ましてから飲むわ」
四人が和やかに話しながら飲んでいると、一人の男性が近づいてきた。涼子の元彼だった。彼は涼子を見て嘲るように言った。
「おまえ、とろみがついたやつしか食べられないのか。随分と可哀想なもんだな」
愛斗が注意しようと立ち上がるより先に、ありさが立ち上がり、男性の肩を叩いて言った。
「いい加減にしてください! そんなこと言うなんて最低です! 人の痛みがわからないなんて、どういう神経してるんですか! さっさと帰ってください!」
男性はありさの勢いに気圧され、何も言い返せないまま店を出て行った。
「ありがとう、ありさちゃん。嫌な思いをさせちゃったね」
「大丈夫だよ。涼子さんが悪いんじゃないから」
の後も四人は話を続け、コメダコーヒーを出たところで解散となった。愛斗はありさとデートを続け、街を歩きながら何度もキスを交わした。そんな二人の様子を、美波が遠くから見ていた。
「ありささんがいるんだから、諦めたら?」と涼子と高が美波に声をかけると、美波は「わかった」と頷いた。だが涼子が信じた矢先、美波は舌を出した。
「信じるわけないじゃん。嘘に決まってるじゃん」
それから愛斗とありさは手芸屋へ入り、布をたくさん買い込んだ。家の前で別れると、愛斗はのりおと会い、朝になって仕事へ向かった。
ありさはアルバイト先へ行き、休憩室で愛斗を待っていた。そこへ美波がやってきた。ありさは慌ててラッピングされた袋を隠したが、美波はそれを奪い取り、中身を見た。
中には手作りのティッシュ入れが入っていて、「愛斗」と刺繍が施されていた。
「なにこれ、手作り? こんなもの愛斗くんがドン引きするに決まってるじゃん」
美波はそう言うと、袋ごと外へ投げ捨てた。ティッシュ入れは道端の木の枝に引っかかり、ぶらりと揺れた。
ありさは駆け寄って取りに行くと、ちょうど愛斗が戻ってきた。
「愛斗くん…ごめんね。せっかく作ったのに…」
愛斗は木から取り外し、汚れたティッシュ入れを見て言った。
「汚れちゃってるから、一旦捨てるね…」
「捨てないで! まだ使えるよ! せっかく二人で考えて作ったのに…」
「わかった。捨てないよ。ありがとう、大事にするね。ありさが頑張って作ってくれたんだから」
愛斗がありさを慰めていると、その様子を見ていた涼子が美波に近づいた。
「美波さん、それはないんじゃない? 人のものを捨てるなんて…」
美波はその言葉に逆上し、涼子を強く突き飛ばした。
「うるさい! 余計なこと言わないで!」
涼子はよろめき、そのまま後ろへ倒れ、コンクリートの地面に首を強く打ちつけた。
「涼子さん!」
ありさは泣きながら駆け寄り、肩を揺すった。
「大変だ! すぐに病院に行こう!」
「大げさなんだよ、それくらいで」と美波は冷ややかに言った。
「何が大げさなの! 首を打ってるんだよ! 謝ってよ!」
ありさは怒りを込めて美波の頬を叩いた。
愛斗は涼子を抱きかかえ、急いで病院へと向かった。ありさも後を追いながら、美波の方を振り返った。その目には、怒りと悲しみが溢れていた。
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