お前だけを見ていたい、なんて本人には言えない。

澪side

放課後の教室、西日が差し込む窓際。


私の心臓は、うるさいくらいに激しく胸を打っていた。目の前にいるのは、多田海里くん。


整った顔立ちに、いつも気だげだげしそうなくらいクールで、誰に対してもぶっきらぼうな「塩対応」な彼。

そんな海里くんに、私は思い切って告白をした。

「……だから、その、海里くんのことが好きです! よかったら、付き合ってください!」

返ってきたのは、相変わらずの低い声だった。

「……いいよ」

え、いいの……? 夢じゃないよね?


驚きで目を見開く私に、海里くんは相変わらずポーカーフェイスのままだった。




こうして私たちは付き合うことになったけれど、問題があった。



それは、学校のみんなにはまだ「秘密」だということ。


だから学校での海里くんは、一段と塩対応だった。


周りの目を気にして私を避けているようにすら見える。

休み時間になれば、私はクラスの男子たちに囲まれて、なんとなくワイワイと喋ってしまう。


でも、その視線の端にはいつも、席の隅で一人静かに教科書をめくる海里くんの姿があった。

(……あぁ、まただ。海里くんは、私なんかと付き合って本当は面倒くさいって思ってるんだ……)

みんなの前では普通に接しなきゃいけないから、海里くんの前で余計にてれ隠しでそっけなくしてしまったりして。


私ばかりが海里くんに夢中になって、彼を困らせている。


私だけが一方的に彼を好きで、片想いしているような不安が、胸をチクチクと刺した。


海里くんはモテるし、私じゃなくてもいいんじゃないかって、勝手に落ち込んで。

自分だけがこんなに嫉妬して、独占欲に振り回されているんだって、苦しくてたまらなかった。

――だけど、その思い込みは、ある日の放課後に音を立てて覆されることになる。

廊下で他の男子と楽しそうに話していた直後だった。


急に腕を掴まれ、人目のない階段の踊り場へと引っ張り込まれた。


背中が冷たい壁に押し付けられ、目の前には、見たこともないほど険しい顔をした海里くんが立っていた。

「っ、海里くん……? ここ、誰か来たらどうするの……!」

怯えたように見上げる私を、海里くんは真っ直ぐに見据えていた。


その瞳には、今までにないほどの熱が宿っていて、息が止まりそうになる。

「……お前さ」

低く掠れた声が、耳元で響いた。

「さっきから、あいつと何話してたの」

「え……?」

「俺以外の奴の前であんなに楽しそうに笑うなよ。見ててイライラする」

ぽかんと口を開けた私に、海里くんは吐き捨てるように、でも切なそうにそう言った。


――え? 今、なんて……?

「……え? 海里くん、それって……もしかして、嫉妬、してくれてるの……?」

図星を突かれたのか、海里くんはわずかに目を逸らし、返答に詰まった。


その反応を見た瞬間、私の胸の奥から、堰を切ったように熱いものが溢れ出した。


ずっと不安だったのは、私だけじゃなかったんだ。


海里くんも、私と同じように嫉妬してくれていたなんて。

「よかったぁ……! 私だけ、海里くんに片想いされてるみたいで、ずっと苦しかったのに……! 海里くんも、同じだったんだ……!」

涙ぐみながらそう告げると、今度は海里くんが目を見開いた。

隠していたつもりの独占欲がぶつかり合い、冷たい仮面が崩れ去る。


海里くんは溜息をつくように小さく息を吐くと、私をまっすぐに見据えて言った。

「……勘違いすんな。お前のことが、どうしようもなく好きなだけだ」

真っ赤になって俯く私の頭を引き寄せ、誰にも見られない場所で、彼は初めて私に優しく口づけた。


学校では相変わらずの塩対応だけど、二人きりの時だけ見せてくれる彼の熱に、私の心は甘く溶かされ続けている。
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