お前だけを見ていたい、なんて本人には言えない。
あとがき 海里side
……おい、なんだよその目は。
そんなにじっと見つめるな。照れるだろ。
……いや、照れてねぇよ。
こうして読者のお前が、このバカみたいに不器用で、でもどうしようもなかった俺たちの話の最後まで付き合ってくれたことくらい、ちゃんと分かってる。
だから……その、なんだ。ありがとな。
正直、こういう表に出るようなコメントを書くなんて柄じゃない。
いつもなら「勝手に読んで勝手に満足しろ」って冷たく突き放すところだ。
だけど、作者のあいつが「主人公の海里、お前が自分の口で語れ」ってうるさくノートとペンを押し付けてきやがったから仕方なくペンを握ってる。
……文句があるならあいつに言ってくれ。
さて、俺がこの物語の中で何を考えていたか、か?
そんなの、思い返しただけでも胃が痛くなるし、自分の子供っぽさに呆れるだけだ。
でも、あいつ――桜坂澪のことになると、どうしてあんなに冷静でいられなくなったのか、少しだけ振り返ってやるよ。
そもそも、俺が澪を好きになったきっかけなんて、そんな大層なもんじゃない。
いつだって周りの目を気にして「クールな優等生」とか「話しかけにくい多田くん」とか、勝手に周りが貼り付けた薄っぺらい仮面をかぶって生きている俺の隣で、あいつはいつだって太陽みたいに笑っていた。
俺がどんなにそっけない態度を取っても、ぶっきらぼうに突き放すような返事をしても、あいつはめげずに「海里くん!」って名前を呼んでくれた。
眩しかった。汚れた自分の内側が、あいつの光に照らされるのが恥ずかしくて、だからこそ余計に冷たい態度を取ってしまった。
嫌われたくなかったのか、それともこれ以上深入りして自分の醜い独占欲に気づかれるのが怖かったのか……当時の俺には、その区別もつかなかった。
告白されたとき、内心どうだったかって?
そりゃあ、頭をハンマーで殴られたような衝撃だったさ。
まさか、あんなに眩しいあいつが、俺なんかを見てくれていたなんて思ってもみなかったからな。
即座に「いいよ」って返事をしたけれど、声が震えなかったのは奇跡としか言いようがない。
心の中では、嬉しすぎて狂いそうだったんだからな。
だけど、そこからが地獄の始まりだった。
澪が「学校では秘密にしよう」って言ったとき、最初は「そりゃそうか、周りに変な噂立てられても面倒だしな」なんて冷静を装っていた。
でも、実際に学校が始まってみるとどうだ。
あいつは学校だと、俺の前で必要以上にそっけなくしたり、気まずそうに目を逸らしたりする。
……まあ、それ自体は恥ずかしがってるんだろうなって分かってたからまだ許せた。
問題は、それ以外の時間だ。
休み時間になるたび、クラスの奴ら――特になんの苦労もなさそうにヘラヘラ笑っている男子たちが、当たり前のように澪の周りに群がっていく。
あいつは誰にでも優しいから、その男たちとも楽しそうに笑い合って、楽しそうに話している。
遠くの席からその光景を見るたびに、俺の胸の奥底でドス黒いマグマみたいなものがフツフツと煮えくり返っていた。
(なんであいつらは、澪とあんなに自然に笑い合えるんだよ)
(俺なんか、付き合ってるはずなのに、あいつの隣ですらまともに笑いかけてやれないのに)
自分以外の奴と楽しそうにしている澪を見るのが、痛いくらいに嫌だった。
澪はきっと、俺みたいな無愛想で面倒くさい奴と付き合って後悔してるんじゃないか。
本当はもっと明るくて、一緒にいて楽しい奴といる方がお似なんじゃないか。
そうやって、勝手にネガティブになって、勝手に傷ついて、勝手に絶望していた。
俺だけだと思ってた。
あいつに夢中になって、あいつのちょっとした笑顔や他の男への視線に嫉妬して、狂いそうになっているのは、世界中で俺一人だけだと思い込んでいた。
俺はクールで、感情に振り回されない男だなんて、自分で自分を騙しながら、内心では焦燥感でボロボロだったんだ。
だから、あの日の放課後。
廊下で他の男と楽しそうに話す澪を見た瞬間、理性なんてきれいさっぱり吹き飛んだ。
気づいたらあいつの手首を掴んで、誰もいない階段の踊り場に引きずり込んでいた。
あいつがあんなに怯えたような、でもどこか期待に満ちた目を向けてきたとき、俺の中の限界のダムが決壊した。
「お前さ、さっきからあいつと何話してたの」
「俺以外の奴の前であんなに楽しそうに笑うなよ。見ててイライラする」
我慢できずに吐き出した言葉は、自分でも引くくらいトゲトゲしくて、独占欲剥き出しのものだった。
あんな情けない姿、澪に見せるつもりなんてなかったのに。
嫌われるかもしれないって恐怖すら、そのときは嫉妬の炎にかき消されて消え失せていた。
だけど――。
あいつが俺の言葉の意味を理解した瞬間、あんなに怯えていたはずの顔が、信じられないくらい柔らかく、そして泣きそうなくらい嬉しそうな顔に変わったんだ。
「海里くん、それって……もしかして、嫉妬、してくれてるの……?」
その問いに、頭を殴られたような気がした。
あいつも、俺と同じだったのか?
俺が他の男に嫉妬していたのと同じように、澪も俺が他の女(まあ、他の女になびく気なんて微塵もなかったけど)や、俺の冷たい態度に怯え、嫉妬して、苦しんでくれていたのか?
「私だけ、海里くんに片想いされてるみたいで、ずっと苦しかったのに……! 海里くんも、同じだったんだ……!」
そう言って大粒の涙を零しそうになりながら笑うあいつを見たとき、俺の中で、頑なに張り巡らせていた冷たい防壁が音を立てて崩れ落ちた。
ああ、なんだ。俺たちは、お互いにバカみたいに相手のことが好きで、好きすぎるあまりにすれ違って、勝手に空回りしていただけなんだって、ようやく分かったんだ。
「勘違いすんな。お前のことが、どうしようもなく好きなだけだ」
自然と口から出たその言葉は、今まで生きてきた中で一番嘘偽りのない、俺の本当の気持ちだった。
真っ赤になって俯くあいつの頭を引き寄せて、初めて触れた唇の柔らかさと甘さは、今でも鮮明に覚えている。
学校の中では相変わらず「塩対応な彼氏」を演じなきゃいけないかもしれないけれど、二人きりになった途端にあの時みたいに真っ赤になって照れるあいつを独占できるなら、今の関係も悪くないって、心から思えるようになった。
……なぁ。
長々と語っちまったけど、言いたいことはそれだけだ。
俺たちのこの秘密の恋は、これからもずっと続いていく。
学校じゃ相変わらずぶっきらぼうで冷たい態度をとちまうかもしれないけど、その裏で俺がどれだけあいつを目で追いかけて、どれだけ独占欲を燃やしてるかくらい、少しは分かっただろ?
もしまた、あいつが他の男と楽しそうにしてたら……その時は、今度こそ教室の真ん中で抱きしめてやるよ。
周りの目なんて知るかよ。
最後まで付き合ってくれて、ありがとな。
またいつか、俺たちの面倒くせぇ日常を覗き見たくなったら、いつでも戻ってくるといい。……待っててやるよ。
そんなにじっと見つめるな。照れるだろ。
……いや、照れてねぇよ。
こうして読者のお前が、このバカみたいに不器用で、でもどうしようもなかった俺たちの話の最後まで付き合ってくれたことくらい、ちゃんと分かってる。
だから……その、なんだ。ありがとな。
正直、こういう表に出るようなコメントを書くなんて柄じゃない。
いつもなら「勝手に読んで勝手に満足しろ」って冷たく突き放すところだ。
だけど、作者のあいつが「主人公の海里、お前が自分の口で語れ」ってうるさくノートとペンを押し付けてきやがったから仕方なくペンを握ってる。
……文句があるならあいつに言ってくれ。
さて、俺がこの物語の中で何を考えていたか、か?
そんなの、思い返しただけでも胃が痛くなるし、自分の子供っぽさに呆れるだけだ。
でも、あいつ――桜坂澪のことになると、どうしてあんなに冷静でいられなくなったのか、少しだけ振り返ってやるよ。
そもそも、俺が澪を好きになったきっかけなんて、そんな大層なもんじゃない。
いつだって周りの目を気にして「クールな優等生」とか「話しかけにくい多田くん」とか、勝手に周りが貼り付けた薄っぺらい仮面をかぶって生きている俺の隣で、あいつはいつだって太陽みたいに笑っていた。
俺がどんなにそっけない態度を取っても、ぶっきらぼうに突き放すような返事をしても、あいつはめげずに「海里くん!」って名前を呼んでくれた。
眩しかった。汚れた自分の内側が、あいつの光に照らされるのが恥ずかしくて、だからこそ余計に冷たい態度を取ってしまった。
嫌われたくなかったのか、それともこれ以上深入りして自分の醜い独占欲に気づかれるのが怖かったのか……当時の俺には、その区別もつかなかった。
告白されたとき、内心どうだったかって?
そりゃあ、頭をハンマーで殴られたような衝撃だったさ。
まさか、あんなに眩しいあいつが、俺なんかを見てくれていたなんて思ってもみなかったからな。
即座に「いいよ」って返事をしたけれど、声が震えなかったのは奇跡としか言いようがない。
心の中では、嬉しすぎて狂いそうだったんだからな。
だけど、そこからが地獄の始まりだった。
澪が「学校では秘密にしよう」って言ったとき、最初は「そりゃそうか、周りに変な噂立てられても面倒だしな」なんて冷静を装っていた。
でも、実際に学校が始まってみるとどうだ。
あいつは学校だと、俺の前で必要以上にそっけなくしたり、気まずそうに目を逸らしたりする。
……まあ、それ自体は恥ずかしがってるんだろうなって分かってたからまだ許せた。
問題は、それ以外の時間だ。
休み時間になるたび、クラスの奴ら――特になんの苦労もなさそうにヘラヘラ笑っている男子たちが、当たり前のように澪の周りに群がっていく。
あいつは誰にでも優しいから、その男たちとも楽しそうに笑い合って、楽しそうに話している。
遠くの席からその光景を見るたびに、俺の胸の奥底でドス黒いマグマみたいなものがフツフツと煮えくり返っていた。
(なんであいつらは、澪とあんなに自然に笑い合えるんだよ)
(俺なんか、付き合ってるはずなのに、あいつの隣ですらまともに笑いかけてやれないのに)
自分以外の奴と楽しそうにしている澪を見るのが、痛いくらいに嫌だった。
澪はきっと、俺みたいな無愛想で面倒くさい奴と付き合って後悔してるんじゃないか。
本当はもっと明るくて、一緒にいて楽しい奴といる方がお似なんじゃないか。
そうやって、勝手にネガティブになって、勝手に傷ついて、勝手に絶望していた。
俺だけだと思ってた。
あいつに夢中になって、あいつのちょっとした笑顔や他の男への視線に嫉妬して、狂いそうになっているのは、世界中で俺一人だけだと思い込んでいた。
俺はクールで、感情に振り回されない男だなんて、自分で自分を騙しながら、内心では焦燥感でボロボロだったんだ。
だから、あの日の放課後。
廊下で他の男と楽しそうに話す澪を見た瞬間、理性なんてきれいさっぱり吹き飛んだ。
気づいたらあいつの手首を掴んで、誰もいない階段の踊り場に引きずり込んでいた。
あいつがあんなに怯えたような、でもどこか期待に満ちた目を向けてきたとき、俺の中の限界のダムが決壊した。
「お前さ、さっきからあいつと何話してたの」
「俺以外の奴の前であんなに楽しそうに笑うなよ。見ててイライラする」
我慢できずに吐き出した言葉は、自分でも引くくらいトゲトゲしくて、独占欲剥き出しのものだった。
あんな情けない姿、澪に見せるつもりなんてなかったのに。
嫌われるかもしれないって恐怖すら、そのときは嫉妬の炎にかき消されて消え失せていた。
だけど――。
あいつが俺の言葉の意味を理解した瞬間、あんなに怯えていたはずの顔が、信じられないくらい柔らかく、そして泣きそうなくらい嬉しそうな顔に変わったんだ。
「海里くん、それって……もしかして、嫉妬、してくれてるの……?」
その問いに、頭を殴られたような気がした。
あいつも、俺と同じだったのか?
俺が他の男に嫉妬していたのと同じように、澪も俺が他の女(まあ、他の女になびく気なんて微塵もなかったけど)や、俺の冷たい態度に怯え、嫉妬して、苦しんでくれていたのか?
「私だけ、海里くんに片想いされてるみたいで、ずっと苦しかったのに……! 海里くんも、同じだったんだ……!」
そう言って大粒の涙を零しそうになりながら笑うあいつを見たとき、俺の中で、頑なに張り巡らせていた冷たい防壁が音を立てて崩れ落ちた。
ああ、なんだ。俺たちは、お互いにバカみたいに相手のことが好きで、好きすぎるあまりにすれ違って、勝手に空回りしていただけなんだって、ようやく分かったんだ。
「勘違いすんな。お前のことが、どうしようもなく好きなだけだ」
自然と口から出たその言葉は、今まで生きてきた中で一番嘘偽りのない、俺の本当の気持ちだった。
真っ赤になって俯くあいつの頭を引き寄せて、初めて触れた唇の柔らかさと甘さは、今でも鮮明に覚えている。
学校の中では相変わらず「塩対応な彼氏」を演じなきゃいけないかもしれないけれど、二人きりになった途端にあの時みたいに真っ赤になって照れるあいつを独占できるなら、今の関係も悪くないって、心から思えるようになった。
……なぁ。
長々と語っちまったけど、言いたいことはそれだけだ。
俺たちのこの秘密の恋は、これからもずっと続いていく。
学校じゃ相変わらずぶっきらぼうで冷たい態度をとちまうかもしれないけど、その裏で俺がどれだけあいつを目で追いかけて、どれだけ独占欲を燃やしてるかくらい、少しは分かっただろ?
もしまた、あいつが他の男と楽しそうにしてたら……その時は、今度こそ教室の真ん中で抱きしめてやるよ。
周りの目なんて知るかよ。
最後まで付き合ってくれて、ありがとな。
またいつか、俺たちの面倒くせぇ日常を覗き見たくなったら、いつでも戻ってくるといい。……待っててやるよ。