はじまりは、再会の後から 〜二人のイケメンからプロポーズされて困惑しています〜
それでは笑ってもらいましょうか、とばかりに千雪は手際よく髪をほどいた。ファサっとほどけた髪がしなやかに膨らんで、哲平の方へと微かにシャンプーの香りが漂った。

その瞬間哲平は呆けた表情に変わり、耳が赤くなった。

まとめた髪を解く光景をリアルタイムで見たことがなかった哲平は、そのエモさに衝撃を受けた。なんて綺麗なんだ、と。

そんな事とはつゆ知らず、千雪は髪に絡んでいた校章を外すと哲平に手渡した。

「本当にすみませんでした。次のバスまで間が空いてしまいますが、どうしますか?」

千雪の言動で我に返った哲平は不敵な笑みを浮かべた。

「俺は走って行く!トレーニングだと思えば余裕!じゃ、お先!」

「え?走る?ちょっと待ってください!」

その千雪の言葉は届かず、哲平は軽快に走り出した。確かに歩いていけない距離ではないが、問題はそこではない。初対面の女子を一人で置き去りにして、自分だけ遅刻しないように走り去ったという事だ。そのことの大きさに哲平は気づいていない。

哲平の脳内では、髪を解く美しい千雪の姿と、ふわりと漂ってきたシャンプーの香りだけが、何回も再生されていた。そして自分のことを知らない女子に、意地悪だと言われたことが心地良く耳に焼き付いた。

哲平と千雪は、その日の内に同じ教室で再会できた。

(さっきのあの子だ。同じクラスだったんだな。挨拶でもしておくか)

軽い気持ちで声をかけた哲平だが、置き去りにされた千雪は、ろくな挨拶を返してくれなかった。女子から、ちやほやされることはあっても、無下にあしらわれたことがない哲平は、自分がなぜ、こんな仕打ちをされるのか不思議だった。逆に興味が湧く。

それに、千雪に話しかけるたび、あの時のバス停での光景が蘇って、どきどきしてしまうのだ。
< 154 / 172 >

この作品をシェア

pagetop