はじまりは、再会の後から 〜二人のイケメンからプロポーズされて困惑しています〜

過去話 翔也の恋情

大好きな千雪の隣を離れた翔也は二十歳になっていた。無事に高校を卒業した翔也は、カフェ経営に有利な国家資格を取得するため、調理製菓専門学校へ通っていた。寂しさで押しつぶされそうだったが、前を向いて進まなければならない。この五年間、祖父母の家で翔也も必死に暮らしてきた。

そんなある日、祖母の畑の手伝いをしていた翔也は、右手首を骨折してしまった。調理をする上で、大事な利き手だ。すぐに翔也は地元の老舗病院である『こばやし記念病院』に運ばれた。手術をし手首を固定され、三日ほど入院を余儀なくされた。治療の一環として理学療法士の指導の元、リハビリを受けることになったのだが、そこで出会ったのが理学療法士の愛子だ。

中学三年で転校して以来、周りに心を閉ざしていた翔也は、王子様な見た目から想像できないほど虚無感の塊になっていた。頑張れば頑張るほど笑えてくる。叔父のカフェを継ぐことくらいしか希望がなかったのに、今は調理実習すらできない。

失意の中、愛子と二人三脚でリハビリが開始され、辛い日々が翔也を襲った。痛いし、面倒くさいし、出来ることならやりたくない。しかしカフェを営む未来のためには、手首の返しや指先の感覚を狂わすわけにはいかなかった。

(僕は何のために頑張っているんだろう)

そんな翔也の心を溶かしてくれたのが愛子だった。三つ年上の愛子は包容力があって、頼りがいもあって、無気力な翔也を受け入れてくれた。愛子の叱咤激励のおかげで、体も心も元気を取り戻すことができた。

千雪とは違った安心感があり、弱っていた翔也の気持ちが傾くのに時間はかからなかった。愛子もまた、気づけば翔也を好きになっていて、二人が恋人同士になるのは必然だった。

付き合い始めて早五年。専門学校を卒業した翔也は、修行も兼ねて祖父母の家から通える距離にあるカフェで働いていた。愛子との関係も順調で幸せな時間は、このまま穏やかに続くと思っていた。
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