藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 藍の方だって、恋なんてしてる暇はない。しかもこんな不毛な恋……。
「まあそれは……でも人を好きになるって理屈じゃないからさ。私から言わせれば藍はそっちに関しては赤ちゃんみたいなもんなんだし、あんなにカッコいい人と親しくしてりゃ仕方ないっていうか」
 陽菜が気の毒そうにした。
「だからべつに裏切りとまで言わなくても。話を聞く限り結構旦那さんの方が約束違反したんじゃない? 毎日帰宅してるとか」
「それはただの責任感」
「だけど意外と優しいんでしょ? もしかしたら向こうも藍と同じ気持ちかもしれないよ?」
 一ミリも可能性のない気休めを口にされて、藍は力なくかぶりを振った。
「彬さんだよ? 女性には興味がないってはっきり言ってたし、あんな完璧な人が約束を破るわけない」
「どんな信頼……」
 その後も藍はひとしきり自分の不甲斐なさについて語る。普段は悩みを貯めないたちで、悩んだ時も陽菜に聞いてもらうとスッキリとする。
 いつまで元気でいられるかわからない人生だから悩む時間をなるべく短くしていたい、というライフハックだ。
 けれど今はいつまでいってもすっきりとはしなかった。
「そんなに悩まなくても……はじめての恋なんだし、環境的には、すぐ近くにいられてラッキーなんだから楽しめばいいと思うよ」
「それは、相手との未来が考えられる場合だよ。私は……」
 そう言いかけて口を閉じる。これ以上言っては陽菜を困らせるだけだ。
 恋はしない、結婚もしない、そう決めているのは体のことがあるからだ。そんな自分が、ただ楽しむだけだとしても恋をしていいとは思えない。
「と、とにかく、気持ちがバレないようにしないと」
 とりつくろうようにそう言った時、藍のスマホが鳴った。確認すると彬からのメッセージだった。
「旦那さん?」
「うん、そろそろ迎えに来るって」
 今日、陽菜の家で新年会をすることを伝えたら、仕事終わりに車で迎えにくることになったのだ。
「ふふーん? 大事にされてるじゃん」
 陽菜はニヤニヤとする。
「私の言った通りかも」
「だから違うって。寒い中電車で帰って体調が悪くなったらダメだからだよ」
 それは彼がはっきりと言っていたことだ。
 夜の電車は酔っ払いもいて昼間とは雰囲気が違うとも言っていた。
 それはそれで体験してみたいと思ったのだが、無理をして迷惑をかけてもいけないと思いお願いすることにしたのだ。
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