藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 それだけでなく、彬の車に乗れるというのも魅力的だった。
 支度をして陽菜の母にも挨拶をして家を出る。最寄り駅のロータリーに彼の車を見つけた。
 乗り込むと運転席の彼にぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます。お仕事帰りにすみません」
「いや通り道だし、君が酔っ払いに絡まれないかと心配するよりずっといい」
 ハンドルに手を置いたままこちらを見る彬に、藍の胸がドキンと跳ね、頬が熱くなっていく。
 もともとカッコいいとは思っていたが、気持ちを自覚してからは輝いて見える。変なメガネをかけてしまったみたいだ。
 彼は藍をじっと見たまま口を開いた。
「酒は飲んでないな?」
「はい」
「食事はしっかりとったか?」
「食べました」
 体調確認だ。
「熱っぽいとかだるいとかは?」
「ないです」
「疲れは?」
「そんなには」
 まるで病院にいる時のような質問に藍はスラスラと答える。
 けれどそこで。
「——楽しめたか?」
 ふいに異質な質問が混ざり込んだように思えて目を見張る。
 顔色を確認するかのようにじっと見ていた彼が、微妙に目を逸らしている。
 ——楽しめたか?って、体調に関係ある?
 疑問に思うけれど質問に答えなくてはと頷いた。
「は、はい……」
「ならよかった」
 軽く咳払いをして彼は車を発進させた。
 今のはなに?
 疑問に思いながら、運転をする彼の横顔を見つめる。
 メンタルケア、だよね?
 少し前も同じようなことがあった。藍が弥のことを好きなのではないかと確認された時のことだ。彼は、身体だけじゃなくて、心の健康も考えてくれている。
 そしてその優しさが、今は少しつらかった。
 彼の方は、まったくそういうつもりはなくても優しくされたら、嬉しくなってしまう。
 こんなんで気持ちを隠し通すことができるかな?
 そんなことを思って藍は少し不安になった。
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