藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 口元を手で覆って、顔を赤くしている三橋に、さすがに彬は眉を寄せる。
「からかうならいい。変なことを聞いて悪かった。忘れてくれ」
 くるりと背を向け裏口のドアに手をかけると「待て待て待てって……!」と止められた。
「悪かった。あまりにもびっくりしすぎて動揺しちゃったのよ。バカにするつもりはないないないよ、本当に」
 そしてタバコを消して真剣に考え続けた。
「うーん、俺の場合は出会った瞬間に恋に落ちちゃうパターンだからなあ」
 やっぱり聞くんじゃなかったとがっくりする。
「それは本当の愛情なのか? 俺は遊び相手がほしいんじゃない。本当に愛してもらうにはどうすればいいかを聞きたいんだ」
 すると三橋がまた口もとを覆って「ぐう……!」と声を漏らした。
「純心か……!」
 やっぱり聞くんじゃなかったと思いくるりと背を向けると「待てって!」と止められた。
「考える、考えるから! いやだけど、なんだろうな? 相手にもよるし……。だけどそうだ、あれだ。やっぱりこの人と人生を歩んでいきたいと思われるような人間であるべきだ」
「この人と人生を歩んでいきたい……」
「そうだ、だって恋人じゃなくて人生のパートナーなんだから」
「……たとえば?」
「うーん……。俺も結婚相手として女の子を見たことないしなぁ」
 腕を組んで考えている。
「あ、そうだ。濱中さんが、相手の幸せを願えない夫はいらないって言ってたかな。ほらあの人、イギリスの大学に呼ばれた時、夫に反対されて離婚してるから」
「なるほど。足を引っ張られたら嫌になるのは当然だ」
「そういうこと。だからその逆であるように心がけたら?」
 なかなかいい話に思えた。
 お互いにやりたいことを尊重し合える夫婦というのは彬も望むところだ。
 思い返してみれば、見合いの時、藍が自分の研究について『妖精さん』と言って興味を持ってくれたことが、彼女への好意に繋がったのかもしれない。
「まあ本人に素直に聞いてみるのもいいんじゃないか? むしろそれで一発かも。だって素直なお前、俺でもめちゃくちゃキュンとくる」
 三橋は噴き出して、腹を抱えて笑い出す。
「……助かった。ありがとう」
 くそっと思いながらも礼を言って今度こそ建物の中に入った。
 思い切りからかわれたのは癪だが収穫はあった。
『この人と一緒に人生を歩んでいきたい』
 その言葉が胸に残った。
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