藤堂彬の誤算だらけの結婚生活

藍の決意

*  *  *

 ボランティアから帰ってきて玄関のドアを開けると、いい匂いが漂ってくるのに気がついて、藍はくんくんと鼻を動かした。
 カレーだ。
「ただいま戻りました」
 リビングダイニングに続くドアを開けてキッチンに向かって声をかけると彬が鍋をかき混ぜている。
「おかえり。ちょうどできたところだから、食事にしよう」
「え? 彬さんが作ったんですか⁉︎」
「ああ……。食べたいと言っていたから……。いや、無理に食べろとは言わないが」
 驚いて問いかけると、彼は目を伏せる。
「そんな、嬉しいです。食べたかったし。あ、じゃあ手を洗ってきます!」
 藍はコートを置くために自室へ急いだ。
 ひんやりとした空気の中で、火照った頬に手をあてる。
 変な態度じゃなかったよね?と自分の反応を確認した。
 気持ちを自覚して、それを知られてはいけないと決めてからしばらく経つ。
 今まで通りに振る舞うために、彼とやり取りした後は、こうやって確認するのがここのところの習慣だ。
 ——だけどやっぱり難しい……。
 マフラーを外しなから、藍はため息をついた。
 それは、はじめての恋に心が勝手に浮ついてしまうからである。けれど、もうひとつ原因があってそっちがとてもやっかいなのだ。
 ここのところ、彬の藍に対する態度が、以前と違っているように思えるのだ。
 日曜日の今日は藍はボランティアの日だが、彼は仕事が休みだ。それなのに藍の朝ごはんの時には起きてきて、スクランブルエッグの朝食を作ってくれた。
 もちろん恐縮して断ろうとしたが押し切られた。
『君は放っておくと、朝ごはんを食べない時もあるだろう。元気に働きたいならちゃんと食べなさい』
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