藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
けれどそれを口に出したり、文字にするのはとても怖い。あまりにも切実すぎて叶わなかったらと想像するだけで泣きたくなってしまうから。
「えーっと、神頼みしても結果が変わるわけじゃないっていうか、ああいうのは自分に喝を入れるためのものでもあるような、だったら成長は自分の努力が大事だし」
本当の気持ちに蓋をして、早口でそれらしい言葉を口にする。
「そもそもひとつしか願っちゃだめな……」
「藍……!」
遮られて口を閉じる。
彬がガタンと音を立てて立ち上がった。
「悪かった。無理をしなくていい」
どうして?と一瞬思う。
けれど、手の甲に雫がポタリと落ちたのを見て自分が泣いていることに気がついた。
テーブルを回り込んできた彼が、床に膝をついて藍に視線を合わせた。
「悪かった。無神経なことを聞いたな」
「い、いえ……。私こそ、す、すみません」
「謝らなくていい。どうしても気になったから聞いてしまったんだが……。君がいつも明るいから大丈夫なんだと思っていたが」
真摯な視線で見つめられて、複雑な気持ちになる。
どうして彼は、そんなに藍の手術が気になるのだろう?
もしかして、ほんの少しだけでも形だけの妻以上に大切な存在になっているのだろうか?
「なんで泣いちゃったのかな? そんなに大したことはない手術だってわかってるんですよ」
「だからといって怖くないわけはないだろう。怖いと思って当然だ」
優しくて力強い声音に、もう取り繕うことができなくなる。
普段は閉じ込めている不安な心の蓋が開いてしまう。
「こ、怖い……。本当は、怖くて……」
弱気な言葉が口から漏れる。
こんなこと言うべきじゃない。彼は頼っていい人ではない。自分は形だけの妻なのだから重荷になるだけ。迷惑だと思われるとわかっていても止まらなかった。
「普段は思い出さないようにしてて……」
すると、彼が少し腰を上げそのままふわりと抱きしめられた。
「大丈夫だ。手術は成功する。最近、君の主治医と話をしたよ。手術前に免疫力との相性を確認する新しい検査を実施する予定だ。適合率はぐんと上がっている」
彼が口にした具体的な言葉に驚いて、藍は目を見張る。
まさか彼は手術のこと、調べてくれたのだろうか?
「もちろん、絶対ではない。だから怖い気持ちはあって当然だ。むしろ我慢は身体によくないから、不安はすべて吐き出せ。俺が聞く」
そんなことしていいとは思えない。
だって彼は、形だけの夫でそこまでは約束に含まれていない。優しさに甘えるわけにはいかない。
けれど今は、湧き上がる不安にどうにもならなくなってそっと背中に腕を回す。力を込めてぎゅっと抱きつくと、涙が止まらなくなってしまう。
「今まで、ひとりでよく頑張った」
しがみつき、泣き続ける藍を彼はいつまでも優しく撫でてくれている。
たとえそれが義務感から来るものだわかっていてもその優しい感触が不安で荒ぶる心を癒した。
そこでふと、藍は自分の中にある希望が生まれるのを感じた。
この手とずっと一緒にいられたら、どんなにいいだろう?
彼と一緒に生きていきたい。生きていけるかもしれないという希望を持って
そう思った瞬間に、目の前が開けてほんの少し勇気が湧いてくる。
なんの根拠もないけれど、きっと手術は成功する。そんなことを思うくらいに。
——私、手術を受けて、また元気になりたい。そして彬さんにこの気持ちを聞いてもらう。
彼の腕に抱かれながら、藍はそう決意した。
「えーっと、神頼みしても結果が変わるわけじゃないっていうか、ああいうのは自分に喝を入れるためのものでもあるような、だったら成長は自分の努力が大事だし」
本当の気持ちに蓋をして、早口でそれらしい言葉を口にする。
「そもそもひとつしか願っちゃだめな……」
「藍……!」
遮られて口を閉じる。
彬がガタンと音を立てて立ち上がった。
「悪かった。無理をしなくていい」
どうして?と一瞬思う。
けれど、手の甲に雫がポタリと落ちたのを見て自分が泣いていることに気がついた。
テーブルを回り込んできた彼が、床に膝をついて藍に視線を合わせた。
「悪かった。無神経なことを聞いたな」
「い、いえ……。私こそ、す、すみません」
「謝らなくていい。どうしても気になったから聞いてしまったんだが……。君がいつも明るいから大丈夫なんだと思っていたが」
真摯な視線で見つめられて、複雑な気持ちになる。
どうして彼は、そんなに藍の手術が気になるのだろう?
もしかして、ほんの少しだけでも形だけの妻以上に大切な存在になっているのだろうか?
「なんで泣いちゃったのかな? そんなに大したことはない手術だってわかってるんですよ」
「だからといって怖くないわけはないだろう。怖いと思って当然だ」
優しくて力強い声音に、もう取り繕うことができなくなる。
普段は閉じ込めている不安な心の蓋が開いてしまう。
「こ、怖い……。本当は、怖くて……」
弱気な言葉が口から漏れる。
こんなこと言うべきじゃない。彼は頼っていい人ではない。自分は形だけの妻なのだから重荷になるだけ。迷惑だと思われるとわかっていても止まらなかった。
「普段は思い出さないようにしてて……」
すると、彼が少し腰を上げそのままふわりと抱きしめられた。
「大丈夫だ。手術は成功する。最近、君の主治医と話をしたよ。手術前に免疫力との相性を確認する新しい検査を実施する予定だ。適合率はぐんと上がっている」
彼が口にした具体的な言葉に驚いて、藍は目を見張る。
まさか彼は手術のこと、調べてくれたのだろうか?
「もちろん、絶対ではない。だから怖い気持ちはあって当然だ。むしろ我慢は身体によくないから、不安はすべて吐き出せ。俺が聞く」
そんなことしていいとは思えない。
だって彼は、形だけの夫でそこまでは約束に含まれていない。優しさに甘えるわけにはいかない。
けれど今は、湧き上がる不安にどうにもならなくなってそっと背中に腕を回す。力を込めてぎゅっと抱きつくと、涙が止まらなくなってしまう。
「今まで、ひとりでよく頑張った」
しがみつき、泣き続ける藍を彼はいつまでも優しく撫でてくれている。
たとえそれが義務感から来るものだわかっていてもその優しい感触が不安で荒ぶる心を癒した。
そこでふと、藍は自分の中にある希望が生まれるのを感じた。
この手とずっと一緒にいられたら、どんなにいいだろう?
彼と一緒に生きていきたい。生きていけるかもしれないという希望を持って
そう思った瞬間に、目の前が開けてほんの少し勇気が湧いてくる。
なんの根拠もないけれど、きっと手術は成功する。そんなことを思うくらいに。
——私、手術を受けて、また元気になりたい。そして彬さんにこの気持ちを聞いてもらう。
彼の腕に抱かれながら、藍はそう決意した。