藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
問いかけられて、彬はここ数日悩んでいたことを口にした。
「藍が……妻が三日前から家に帰ってこなくなった」
「え、行方不明?」
「そうではない。実家にいると連絡は受けている。しばらく帰らない、と」
三日前、定期検診へ行った藍は結果を父親に伝える為に、実家へ寄った。
予定では一泊して次の日には帰ってくるはずだったのだが【実家でやることができたのでしばらく帰りません。実家には新田さんもいるので心配しないでください】というメッセージが来たきり、帰ってこなくなったのだ。
気になって昨日の夜電話をしてみたら、同じことを電話越しに本人の口から聞いた。
「それは、そんなに悩むことなのか? 濱中さんも結婚時代はしょっちゅう実家に帰ってなかったっけ? 楽なんだとかいって」
気楽な調子で返されて、眉を寄せる。
「濱中さんはお手本にならないだろう。あの人離婚したじゃないか」
「まあ確かに。だけど、べつに珍しくないような。なに直前に奥さんと喧嘩したとか?」
「そうじゃないが」
「じゃあ何か実家に帰られるような心あたりがある感じ?」
それがわからなくて、三橋に相談しているのだ。
「ない。ないから相談してるんだ。あの日朝、家を出るまでは絶対に機嫌がよかったんだ。朝ごはんの俺が作ったスクランブルエッグが絶品だとか言って喜んでたし。病院まで送るつもりだったんだが、タクシーで行くから大丈夫と言われて……。いや待てよ、やっぱり送った方がよかったんだろうか? 夫としてあるまじき振る舞いだったのか?」
原因らしきものを発見して問いかけると、三橋が口もとを手で覆う。そのままぷるぷると震えている。
「どうした?」
「いや……なんでもない。ただそれだけで実家に帰るとは考えづらいと思う」
「じゃあなんだろう? とにかくいつも通りだったんだ。だが俺は相手の気持ちを理解するのが苦手だからそれもあやしいな。気がつかないところで不快にさせていたのかもしれない」
すると三橋が「お」と言った。
「自覚があったんだな。えらいえらい。いやでもその話が本当なら朝の時点で家出する要素はなさそうだけど。本当にただ実家で羽を伸ばしているだけじゃないか? そもそもちゃんとメールが来てるんでしょ。夫婦関係に亀裂が入って帰ってこない可能性は低いよ。それなのにそっちを疑うなんて、なんかお前らしくないね」
それは自分でもわかっている。事実だけを集めれば、三橋の言う通りただの帰省である可能性が高い。
……そうだが、どうにも不安なのだ。
「藍が……妻が三日前から家に帰ってこなくなった」
「え、行方不明?」
「そうではない。実家にいると連絡は受けている。しばらく帰らない、と」
三日前、定期検診へ行った藍は結果を父親に伝える為に、実家へ寄った。
予定では一泊して次の日には帰ってくるはずだったのだが【実家でやることができたのでしばらく帰りません。実家には新田さんもいるので心配しないでください】というメッセージが来たきり、帰ってこなくなったのだ。
気になって昨日の夜電話をしてみたら、同じことを電話越しに本人の口から聞いた。
「それは、そんなに悩むことなのか? 濱中さんも結婚時代はしょっちゅう実家に帰ってなかったっけ? 楽なんだとかいって」
気楽な調子で返されて、眉を寄せる。
「濱中さんはお手本にならないだろう。あの人離婚したじゃないか」
「まあ確かに。だけど、べつに珍しくないような。なに直前に奥さんと喧嘩したとか?」
「そうじゃないが」
「じゃあ何か実家に帰られるような心あたりがある感じ?」
それがわからなくて、三橋に相談しているのだ。
「ない。ないから相談してるんだ。あの日朝、家を出るまでは絶対に機嫌がよかったんだ。朝ごはんの俺が作ったスクランブルエッグが絶品だとか言って喜んでたし。病院まで送るつもりだったんだが、タクシーで行くから大丈夫と言われて……。いや待てよ、やっぱり送った方がよかったんだろうか? 夫としてあるまじき振る舞いだったのか?」
原因らしきものを発見して問いかけると、三橋が口もとを手で覆う。そのままぷるぷると震えている。
「どうした?」
「いや……なんでもない。ただそれだけで実家に帰るとは考えづらいと思う」
「じゃあなんだろう? とにかくいつも通りだったんだ。だが俺は相手の気持ちを理解するのが苦手だからそれもあやしいな。気がつかないところで不快にさせていたのかもしれない」
すると三橋が「お」と言った。
「自覚があったんだな。えらいえらい。いやでもその話が本当なら朝の時点で家出する要素はなさそうだけど。本当にただ実家で羽を伸ばしているだけじゃないか? そもそもちゃんとメールが来てるんでしょ。夫婦関係に亀裂が入って帰ってこない可能性は低いよ。それなのにそっちを疑うなんて、なんかお前らしくないね」
それは自分でもわかっている。事実だけを集めれば、三橋の言う通りただの帰省である可能性が高い。
……そうだが、どうにも不安なのだ。