藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 そのまさかだとは言えず彬は彼を睨んだ。
「は……?」
 その彬の反応に、三橋が固まって目を剥いた。
「はあ⁉︎」
 彬は目を逸らしてごにょごにょ言う。
「だから、俺たちは利害が一致しての結婚だったんだ。それなのに、……そういうことが起こるわけがないだろう」
「いや、だけど、そうなのか⁉︎ 男女がひとつ屋根の下で、結構仲良くやってるみたいだったのに⁉︎」
 よほど衝撃だったのか、見たことがないほど動揺している。うるさい居酒屋にして正解だった。
「それはお前の価値観だろう。気持ちが通じ合ってないのに、身体だけ関係を持つなんてことは俺はしたくない。相手にも失礼だろう。性行為は愛情ありきであるべきだ」
 自分自身の価値観を語ると三橋が「うっ」と言って胸を抑えた。
「そ、そうか、そうだよな。お前は初恋なんだから当たり前だ。俺もはじめはそうだった。中学の時だけど。……でもよく耐えたな。お前の方は好きだったんだし、そこは大人同士なんだからうまいこと言えばなんとでもできるだろうに」
「お前は動物か?」
 彬は軽蔑の目で彼を見る。
 そんなこと絶対にあってはならないと強く思う。藍はどこまでも純粋で疑うことを知らないのだ。それを裏切るなんてことは絶対にしたくない。
 ただ、危ないなと思う時はあったから、万が一にでも何も起こらないように、夜九時を過ぎたら部屋に引きこもるようにしていた。
「はいはい俺はどうせ動物ですよー。だけどまあ、あれだ。結局理由は本人にしかわからない、というわけだ」
 そこで三橋が雑に話をまとめた。
 確実なことは本人にしかわからないというのはその通りだ。
「なあ、どうしたらいいと思う? どうしたら、帰ってきてくれるだろう?」
「うーん、直接聞いてみる……かなあ?」
 それしかないのはわかるのだか、それができないのがつらいところだ。
 そもそも自由を満喫させるというのが、彼女との約束だ。なぜ実家に帰ってしまったのかと根掘り葉掘り聞くのは、ルール違反だ。
「こういう経験はお前にはないか?」
「いや、ある。なぜか女の子が怒ってて連絡がつきにくいんだけど、原因がわからない、みたいな」
「あるんだな? そういう時はどうするんだ?」
 三橋がうーんと首を傾げた。
「とにかく謝り倒す」
「原因がわからないのに、か?」
「ああ、誠意を見せるみたいな感じかな。至らないとことはあるけど、君への気持ちはたっぷりあるよ! みたいな?」
 そう言って彼は、ピストルの形を手で作って、こちらに向かってバキュンと撃った。
「そしたら、もー仕方がないなあ、みっくんは〜って許してもらえる時があるようなないような」
 そしてヘラヘラしながらレモンサワーを飲み干した。
 だいぶ酒が回ってきたようだ。
 そういえばこいつは酒に弱かった、と思いながらも、彬はその言葉を考えてみる。
 ——誠意を見せる。
 原因がわからない以上それしかないように思えた。
 やり方はまったくわからないけれど……。
 レモンサワーのおかわりを頼む三橋を見ながら彬は決意していた。
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