藤堂彬の誤算だらけの結婚生活

実家にて

* *  *

「お嬢さん、今日も来られていますが」
 午後九時、日が落ちた大須賀家にて、お風呂を終えて自室へ向かおうとしていた藍は新田に呼び止められて、どきっとして足を止めた。
「お会いになられてはいかがですか? いくらなんでももう一週間ですよ。私も断るのが心苦しいです」
 新田は、眉を寄せて小言を言う。彼女は家政婦ではあるが、親族みたいなものだから遠慮がない。
「いくらなんでもこのままというわけには行きませんでしょう。お嬢さんがなにもしないなら、旦那さまに報告します」
「待って、それはやめて。ちょっと気持ちの整理をしたいだけなの。お願い」
 藍が実家に帰ってきて二週間弱、父は出張続きで家にいない。だから実家に藍がいるのを知らないのだ。
 もしバレたら、夫婦の危機!と大騒ぎするだろう。
 実際、危機は危機だ。
 父が彬を騙したことを彼が知ったら結婚生活は終わりを告げる。いつまでも隠しているわけにはいかないのはわかりつつ、藍はまだ話をする決心がついていない。
 気持ち的には追い詰められているのだが、それに追い打ちをかけているのが、彬からのアプローチだ。
 ここ一週間、毎日彼はやってきて、藍と面会を求めてくる。
 まだ帰らないのか?というメッセージに、それらしい言い訳を返していたが、さすがにおかしいと気がついたのだろう。メッセージでは、らちがあかないと思ったのかこうして、仕事帰りに寄るようになった。
 けれど藍は一度も会えていない。どうしても顔を見るのが怖いからだ。
 会ったら、あのことを言わなくてはならない。
 そしたら一瞬にして自分の価値はなくなってしまい、きっと今までのように優しくしてくれなくなる。それを受け止める心の準備がまだできていないのだ。
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