藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 だからといって事情を洗いざらい話す気にはなれなかった。
 そもそも今は、これから臨む彬との話し合いについて頭がいっぱいで、弥の相手をできる余裕がない。
 駐車場へ向かう道と正門へ徒歩で向かう道の分かれ道のところまで来て藍は拝むように手を合わせた。
「ごめん、わっくん。私、もう行くね。話はまた今度……⁉︎」
 唐突に二の腕を掴まれて、ぐいっと引かれる。驚いてバランスを崩しよろめいた。そして気がついた時は、弥に抱きしめられていた。
「行かせない」
 低い声で囁かれて息を呑む。
「先生のところへは帰さない」
「わっくん……?」
「藍ちゃんは僕が一生大切にする。だから先生とは別れて、僕と結婚してほしい。今日はそれを言いに来たんだ」
 予想外の告白に、頭がついていかず目を見張る。
 弥は、記憶にある限りずっと仲のいい友達だった。正直なところ性別が違うことすら意識したことはなかったのに。
 その彼と、結婚……?
「私……。わっくんは、友達だと思ってて……」
 そしてこれからもその予定だったはず。どうしていきなりそんな話になるのだろう?
「友達……そうだね。でも僕はずっと藍ちゃんが好きだったよ。藍ちゃんが結婚も恋愛もしないって言うから、一生友達のままでいようと思ってたんだ。それでもそばにいられるならそれでいいって思ってたのに、いきなり結婚するなんて……!」
 自分を包む腕にぎゅっと力が込められて、少し苦しくて顔を歪める。
 胸が痛かった。
 そばにいたのに全然気がつかなかったことを申し訳なく思う。
 陽菜と彼は、藍にとって外の世界の窓口だった。彼らなしでは今の自分がこんなに幸せに生きていることはなかっただろう。けれど結婚相手としてみられるか、男性として愛せるかと問われると、答えは明確にノーだった。
 もしかしたら、彬と出会う前ならばそれもありだと思ったかもしれない。一番近くにいて、お互いに理解し合っている人だから。
 けれどもうダメだ。たとえ彬と別れるとしても、弥と結婚するなんてあり得ない。
 彼の胸に両手を置いてそっと押すと、腕は簡単に解けた。
「ごめん。私、わっくんとは結婚できない。わっくんは大切な人だけど、そういう風には見られないの。ごめんなさい」
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